父と囲んだ食卓

2014.01.01

「私の父は、一言で言うと"ザ・昭和の働くお父さん"です」と話すのは、キリンビールで数々のビールや発泡酒、ノンアルコールビールなどの商品開発を担当する妻鳥奈津子さん。スプリングバレーブルワリーの定番ビールでは開発者の中の紅一点として『Daydream』を造ったブリュワーでもあります。まもなく父の日。今回は、熊本で生まれ育った妻鳥さんのお父さんへの想いを伺いました。

九州男児の父と器用な母

—ご出身は熊本と伺いましたが、熊本には何歳まで住んでいたのですか?

妻鳥さん(以下、敬称略):大学から地元を離れ東京に来たので、熊本に住んでいたのは高校生まででした。家族は、両親と兄、そして私の4人家族です。両親も九州生まれの九州育ち。その土地柄そのままに、私の父は絵に描いたような“九州男児”ですね。ゴルフばかりしているので色が黒くて、家では不器用で、多くを語らないタイプでした。私が小さな頃はいつも私が起きるより先に家を出て、寝た後に帰ってくるような働くサラリーマンでした。そんな父でしたが、クリスマスイブにはクリスマスケーキをいつも買って帰ってきてくれたのが毎年のうれしい思い出です。

—学生時代はどんな風に過ごしていましたか?

妻鳥:高校ではあまり経験した事のないスポーツで面白そうだからといった理由からハンドボール部に所属していました。父は、私が高校に入ってからの約15年間、同じ九州ではありましたがずっと単身赴任をしていて、家に戻ってくるのは月に数回だけでした。だから、高校生くらいの頃は父が帰ってきた時「ちょっとあそこ連れてってよ」なんて、スポーツ用品店などに二人で一緒に買い物に行ったりしていました。思春期の頃に父親をちょっと煙たく思ったりすることがあると聞きますが、離れていた時間が長かったせいか、私はそういう経験はなかったですね。

—お父さんが帰ってくる日の食卓は、お母さんも腕を振るわれたのですか。

妻鳥さん:父は馬刺しや刺身が大好きだったので、母はいつも父のために用意していたのをよく覚えています。もちろんそれだけではなく、うちの母は、素朴ながらも工夫して豊かな食卓を作ってくれました。お祝い事や季節の行事には、その時に合わせた食事が並んでいたのを覚えています。

父との乾杯

—お父さんと最近乾杯したのはいつでしたか?

妻鳥さん:お正月かな?父の還暦祝いとか年に数回帰省して家族が集まる時にはいつもビールで乾杯しています。もともと家では焼酎のお湯割りのイメージしかなかった父はビールなどをそんなにあれこれ選んで飲むタイプではありませんでしたが、私がキリンビールに入社して『一番搾り』を飲む回数が増え、さらにクラフトビールの開発を担当するようになってからは、私がクラフトビールの詰め合わせや開発したビールなどをいつも父に送るので、今は色々なビールを飲むようになりました。

—娘さんの開発したビールを飲めるお父さんは幸せですね。

妻鳥さん:そうなんでしょうかね。でも、基本的には父とは電話で話したりすることはほとんどなくメールのやり取りくらいで、ビールを送った感想もメールでいつも「おいしかったよ」くらいなんですよ。

—帰省の時は一緒に飲むことが多いですか?

妻鳥さん:たまに帰った時は、母が出かけて家にいない時でも父と先に食事をしながら飲み始めることはよくあります。昔はクリスマスケーキでしたが、今は私が帰る時にはいつもキリンのビールを買ってきてくれます。

—そんな時、お父さんとはどんなことを話しますか?

妻鳥さん:普段は言葉少なですが実は語りたいタイプなので、酔いに任せて「仕事っていうのはな…」とか「人との関わり方は…」なんて、普段は言えないようなことを話してくれたりします。昔からちょっと仕切りたがり屋なところもあって、私が小さい頃は毎年元旦に母の作ったお節料理を前に、今年の目標を一人一人発表させたりしていました。父はいつも家族の健康を願ってくれていましたが「ゴルフのスコアをもっと下げる」なんてことも言っていましたね。でも、私も働くようになってから改めて父の偉大さやありがたさを感じることが多くなりました。私が小さい頃は、我が家はかなり頻繁に家族旅行に行っていて、九州はほぼ全域ドライブしています。今思えば、当時の父は、朝から晩まで仕事をしながら、休日は家族の時間に費やし、相当大変だったのではと思っています。

—確かに、大人になって親の凄さやありがたみがわかることってありますね。

妻鳥さん:そうなんです。昔は休みの日にハーフパンツでゴロゴロしているイメージしかなかったんですけどね。

母の手伝いから今の仕事へ

—お母さんのお手伝いはしましたか?

妻鳥さん:小さい頃から母の手伝いはしていました。母はとても器用な人で料理に限らずなんでも手作りで作ってくれました。母が当時から食材に様々な工夫を加えて料理を作ってくれたのがとても楽しくて、そんな影響で私も料理をするのがとても好きになったと思います。就職活動では食品関連の開発の仕事をしたいと考えて、キリンビール株式会社に入社することになりました。そして今、クラフトビールを造る仕事に携わっていますが、改めて思うと、母は当時からすでにクラフトマンシップを実践していたなと思っています。ビールの香味作りをするには味のバランスはとても重要で、それは料理作りと相通じるものがあると痛感しています。私にとってビール造りは料理歴よりまだ短く、コントロールが効かなくて苦労も多いですが、とてもやりがいを感じていますし、改めて母にも感謝しています。

—妻鳥さんが開発した『Daydream』は料理にも合わせやすいですよね。

妻鳥さん:ゆずや山椒などの和素材を使っているので、特に和食に合わせやすいビールになっています。私自身がホップの苦味が効いたビールよりホワイトビールのやさしい味わいが好きで、昔ベルギーに行った時に飲んだ白ビールのおいしさに感動して、いつかこんなビールを日本で造りたいと思っていました。なので、私と同じように苦いのが苦手と思っている方たちにも楽しんでもらえたらと開発しました。

これから造るビールの夢

—例えばお父さんのために作りたい料理とビールの組み合わせはどんなものですか?

妻鳥さん:もしできるなら、九州の素材か特産品を使って造るビールと九州の野菜などを使った料理を合わせて楽しんでもらえたらいいですね。

—お父さんの好物の馬刺しだといかがでしょうか?

妻鳥さん:父の大好きな馬刺しやお刺身には九州の甘口の刺身醤油をつけるので、濃密なホップ感のある『496』なら相性がいいと思います。もちろん、『Daydream』もお刺身との相性もいいですね。その他には『キリンブラウマイスター』も合うと思います。

—これから造るビールはどんなものを描いてますか?

妻鳥さん:ビールの伝統的な醸造方法に敬意を表しつつ、ビールの分野に捉われずに、様々な素材を使うことが好きなので、『Daydream』や『ほうじ茶エール』だけでなく、もっと和素材のものを原料に使った商品にこれからも挑戦していきたいと考えています。ビールを造るようになって、言葉で細かく説明しなくてもその香りや味わいで思いを伝えることができる、そんな商品開発に携われているのはとても幸せだと思っています。

最後の質問に「ビールは妻鳥さんの家族にとってどんな存在ですか?」と伺ったところ「当たり前に食卓にあるもの」との答えが返ってきました。“当たり前にそこにあって、多くを語らずとも心がつながっているもの”。今回妻鳥さんがお父さんの人柄を話してくれたそんな言葉と重なり合うような気がしました。もしかすると妻鳥さんにとって、ビールはお父さんのような存在なのかもしれません。

まもなく父の日。今年はどんな形でお父さんに感謝の気持ちを伝えますか?特別なプレゼントもいいけれど、笑顔の乾杯が一番のプレゼントになるのかもしれません。

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