だから「好奇心」は止まらない。これからのウイスキーを考える [Blend Your Curiosity vol.11]

2019.10.24

「Blend Your Curiosity」は、マスターブレンダーである田中城太が、ブレンダーの仕事を通して発見したウイスキーの新しい愉しみ方をお届けする全11回の連載企画です。最終回となる今回は、ウイスキーの「これから」について。田中自身の想いで締めくくります。

連載「Blend Your Curiosity」はコチラ

今もこれからも、ウイスキーは「好奇心」を掻き立てるお酒

この連載は、これまで私がウイスキーづくりに携わってきた中で発見してきたことやその魅力をご紹介することで、みなさんのウイスキーへの好奇心や体験をくすぐることと、みなさんの声に耳を傾け、好奇心をブレンドさせながら一緒に新しいウイスキーの愉しみ方をみつけたいという想いからスタートしました。これまで計10回の記事はいかがでしたか? ウイスキーに対する好奇心は掻き立てられたでしょうか。

昨年11月の第1回目の記事で、私自身が「ウイスキーの魅力を探究している道なかば」だとお伝えしました。今回の連載に取り組む中で、 私自身、 今まで気付かなかったウイスキーの愉しみ方や魅力を発見することができました。

あれからおよそ1年が経とうとしていますが、この1年間だけでも世界中で新しい蒸溜所は増え続け、スコットランドだけでも4つの蒸溜所が開設されました。この10年で30以上の蒸溜所が増え、計画中のものを含めると50にもなります。ここまで増えるのは長いスコッチウイスキーの歴史の中でも稀なことで、 1890年代以来の勃興期と言われています。

アメリカではバーボン業界の隆盛により、ツーリズムが活況を呈しているだけでなく、ケンタッキーへ様々な国際会議やビジネスが引き寄せられているほどです。日本でも現在計画中のものを含めると、ウイスキー蒸溜所が20まで増えました。

この1年間で、日本におけるウイスキーイベントの数や規模も随分と大きくなってきました。今年は北海道や倉敷で1,500人~2,000人規模のイベントが開催され、今後沖縄でも開催予定です。文字通り日本全国のあちらこちらで開催されるようになりました。

これはひとえに、お客様からの関心が高まり、ウイスキーをもっと知りたい、身近なものとしてもっと接する機会が欲しいという期待感の顕れだと思います。

毎週のように、世界のあちらこちらで新商品が発表されたり、蒸溜所が開設されたりと市場が活況を呈していて、ウイスキーの新時代ともいえる状況です。この新しい時代と共に、ウイスキーを愉しむ文化がこの日本にしっかりと根付くことを願っています。今回は、「これからのウイスキー」について考えていることをお届けしたいと思います。

ますます面白くなる日本のウイスキー

近年、日本のウイスキーに対する国際的評価が非常に高まっています。私自身も、海外のウイスキーイベントなどでジャパニーズウイスキーに対する評価や関心の高さを直接、見聞きすることがとても増えました。

スコットランドやアメリカ、カナダのウイスキーづくりから学んだものを単に模倣するだけに留まらず、こだわりや探究心をもってより美味しいものに昇華させた先達の努力や熱い想いの結晶が、今日のジャパニーズウイスキーの世界的な評価につながっています。

詳しくは第3回でご紹介していますが、 ジャパニーズウイスキーとは何か特別なスタイルや味わいに明確なものがあるわけではありません。それぞれの日本のウイスキーメーカーが理想を追い求め、日本人ならではの探求心や細部にこだわる気質もあいまって、原酒のつくり分けやブレンド技術がベースとなった繊細でオリジナリティ溢れる独自のスタイルをつくり上げてきたのです。

ジャパニーズウイスキーへの世界的な注目とクラフトブームが相まって、日本でも「クラフトディスティラリー」が増えてきました。市場の活性化にとっては、これまでにない発想や新しいスタイルのウイスキーが生まれることは歓迎すべきことなのですが、業界全体としてクオリティと信頼性の底上げをすることが重要になってきています。皆がウイスキーづくりの基本をしっかり押さえながら切磋琢磨し、こだわりのある高品質のものをつくってゆけば、日本のウイスキーは益々魅力あるものになることでしょう。

これから挑戦したいウイスキーづくり

私のビジョンは、20年後に世界中でキリンのウイスキーが愛されていること。
一人でも多くの人に愛してもらえるほど魅力的なウイスキーをつくってゆきたいと思っています。

これまでは、日本のお客様の嗜好にあったものをつくろうという考えでやってきました。日本人の嗜好である、繊細ながら複雑で味わい深いものを追い求めた試行錯誤の結果が、今の国際的評価につながっていると思います。人が美味しいと思うものは、気候や文化の違いによって、多少の違いはあるかもしれませんが、本質的なところでは大きくは変わらないと感じています。

私が理想としているのは、“魂を揺さぶる”ウイスキー。飲んだ時に心が揺さぶられるウイスキーづくりです。これは私自身、これまでウイスキーづくりに関わってきた中で心を揺さぶられる体験を何度かしてきたがゆえに辿り着いた想いです。

たとえば、私がフォアローゼズ在籍時、原酒の熟成状態を調べるためにとある原酒をテイスティングした時、それまでウイスキーでは体験したことのない、なんとも言えない独特のフルーティーさと奥深い味わいに鳥肌が立つほど感動したことがありました。後からわかったことですが、この原酒はつくるのが非常に難しいタイプのもので、苦労して出来上がったものでした。

このように、だた美味しいと感じるだけでなく、心に訴えかけてくるウイスキーは、単に香りや味わいによる美味しさだけではない、そのウイスキーから感じられる何かがあるからだと思うのです。

ウイスキーは「時の贈り物」とご紹介したように、ウイスキーづくりは手間暇がかかり、世代を超えた人々の熱い想いや膨大な時間が詰まっています。それだけに、つくり手の想いやこだわりが味わいに反映され、それが魅力となって人々を惹きつけるのだと思います。そしてこれからもそんなウイスキーづくりに挑戦しつづけたいと思っています。

だからウイスキーの好奇心の旅は終わらない

自分自身が魂を揺さぶられた時の感動は忘れらないほど貴重な体験なのですが、お客様からそのような体験をされた話を聞くと、つくり手として何よりも嬉しいですし、ウイスキーづくりの励みになります。

先日もお客様から貴重な体験をお聞きする機会がありました。「私にとって、ウイスキーは単なるアルコール飲料の域を超えて、もはや、かけがえのないものになりました 」と嬉しそうにお話しをされるのを聞き、とても感銘を受けました。

ウイスキーを全く飲んだことがなかった方が、50度の原酒をテイスティングしてウイスキーを美味く感じたというエピソードや、チーズやチョコレートがあまり好きでなかった方が、ウイスキーと合わせることで好きになったといったエピソードには、ウイスキーの潜在的な魅力の大きさを感じます。そして同時に、ウイスキーにはまだまだ発見できていない世界があるのだとワクワクします。

ウイスキーについてお客様から教えられることも多く、絶えず発見があるウイスキーづくりに携わることができたことをとても幸せに思っています。 これからも皆さんと共に、尽きない「好奇心」をブレンドしながら新たな世界を開拓し、新しいウイスキーの文化をつくっていきたいと思います。

11回にわたる連載「Brend Your Curiosity」はこれで終わります。いかがでしたでしょうか?読んでいただいた方にとって、少しでもウイスキーへの好奇心が掻き立てられたならとても嬉しいです。

それでは、またどこかでお会いしましょう。その時はぜひ、みなさんのウイスキーへの好奇心や体験をお聞かせくださいね。

1年間ありがとうございました。