夕食前のひとときを楽しむ「アペロ」のすすめ
2018.11.22
お酒と軽いおつまみを口にしながら、夕食前のひとときをゆっくり過ごす。そんなフランスの食習慣「アペロ」には、語源のラテン語「aperire=開ける」の意の通り、食事の前に胃袋を開けて、夕食に備えるという目的があります。 今回はアペロにぴったりな簡単おつまみを、『アペロ フランスのふだん着のおつまみ』の著者であり料理研究家の若山曜子さんに教えてもらいました。
「主役は会話」居心地のいい 親密な時間の過ごし方
―夕食前の軽いお酒と食事。日本人の感覚として、なかなかイメージしにくい食文化のようにも思えるのですが、フランス人はアペロをどう楽しんでいるのでしょう?
若山さん(以下敬称略):フランス人にとってのアペロは、端的に言ってしまえばディナー時間までの「間をつなぐ」もの。空腹を紛らわす程度のちょっとしたおつまみとお酒で、会話を楽しむことですね。
―「間をつなぐ」ものですか。
若山:はい。もともとフランス人は誰かをただ待つというのが苦手な性格です(笑)だからはじめに集まった友人と先に談笑しながら飲んで待っていることが多くて。そういう「間をつなぐ」ものがアペロです。アペロの主役は料理やお酒ではなく、あくまでも会話なんです。
―アペロにはどんな料理を用意すればいいのでしょう?
若山:何種類もつくる必要はありませんし、ペアリングを意識し過ぎなくて大丈夫です。ただ、ディナー前の時間ですので、お腹が満たされてしまう炭水化物が多くなるものは避けた方がベターだと思います。軽くディップしただけで食べられたり、片手でつまめる程度のおつまみを意識してみてください。
もちろん、惣菜屋さんで買ってきたものでも構いません。ですが、そのままお皿に盛って出すのではなく、少しアレンジを加えて色味や香りでアクセントを追加すると、おもてなし料理っぽくなります。こういった気遣いがあると、より会話も盛り上がるのではないでしょうか。
―具体的にはどういったアレンジがあるといいのでしょう?
若山:たとえば、アクセントになるハーブや色鮮やかな野菜を冷蔵庫に用意をしておくと、少し加えるだけで見た目も華やかになります。紫キャベツや赤タマネギなどの野菜は日持ちもするのでオススメですね。
私はよく「キャロットラペ」をつくりますが、ここにコリアンダーシードをよく使うんですね。はじめから入れてしまうのではなく、お客さまがいらしてから加えることで、香り立ちもよく愉しめます。
―おもてなしする側にも愉しみがあるのがアペロなんですね。
肩の力を抜いて会話と時間を楽しむことが大切だと話す若山さん。ここからは実際に2品作っていただきながら、簡単なコツを教えてもらいました。
会話の脇を飾る、アペロなおつまみ
アペロを演出するのは、簡単だけど気の利いたおつまみとお酒。ディナー前に軽くつまめて、見た目も華やかな料理として、若山さんが1品目に選んだのは、切ってのせるだけの手軽なオープンサンド、“タルティーヌ”です。
クリームチーズでも、レバーペーストでも、バターでも。フランスでは、パンを切って何かを塗ればそれだけでタルティーヌ。薄めにスライスしたバゲットをさっとトーストして、お好みのペーストを塗った上に季節に合わせて色とりどりの食材を盛りつけましょう。
若山:おいしいハムとかローストビーフとか、買ってきた食材を組み合わせるだけで、立派なタルティーヌになります。あとは彩りを意識して、ハーブでもスパイスでも、色を添えてあげるときれいに仕上がりますよ。
もう一品は、ツナ缶で手軽につくれる“リエット”です。本場フランスの家庭でもパテやリエットはアペロの顔。手の込んだ料理に思えますが、ツナ缶を使えば準備に時間もかけずに簡単に仕上げることができます。
フレーク状のツナ缶は油を多く含んでいるため、かたまりのままのブロックタイプをチョイス。ボウルでほぐして、チーズやアンチョビなど好みの食材とともに混ぜるだけ。お客さんが到着してからでも、10分とかからずにつくれるリエットです。
若山:ツナとクリームチーズだけでもお酒のおつまみにはなるでしょうけれど、それでは少し物足りませんよね。ほんのひと手間かけるだけで“おもてなし感”を演出できますよ。
週末の夕食前の楽しいひとときを
会話に彩りを与えてくれるアペロ時間。ホームパーティーなど人が集まることも多くなるこれからの季節、まずは週末の午後から始めてみてはいかがでしょうか。思い思いのお酒を用意して、簡単なおつまみと共にたのしいアペロな時間を過ごしてみませんか?
プロフィール
若山 曜子
菓子・料理研究家。ル・コルドン・ブルーパリ、エコール・フェランディを経て、フランス国家調理師資格(C.A.P)を取得。帰国後は、雑誌や書籍、テレビのほか、少人数制のお菓子・料理教室を主宰するなど幅広く活躍中。近著に『私のフランス菓子 A to Z』(産業編集センター)、『きれいな野菜のスープ』(学研プラス)など。
書籍紹介
アペロ フランスのふだん着のおつまみ(立東舎 料理の本棚)
簡単なのに洒落た一皿でお酒も会話もすすむ。フランス人が楽しむ、家飲みおつまみ「アペロ」。著者の若山曜子さんにとって初のおつまみレシピ集となる本書では、お菓子の世界で磨いた抜群のセンスを生かして、簡単なのに見た目にも美しいレシピを90点超掲載。