好奇心の赴くままに。ウイスキーを知る、という愉しみ [Blend Your Curiosity vol.1]

2018.11.08

「Blend Your Curiosity」は、マスターブレンダーである田中城太が、ブレンダーの仕事をとおして発見したウイスキーの新しい愉しみ方をお届けする全11回の連載企画です。記念すべき第1回は、田中城太がこの連載に込めた思いを語ります。

「Blend Your Curiosity」というタイトルにした理由

はじめまして。マスターブレンダーの田中城太です。
突然ですが、みなさんはウイスキーにどのようなイメージをお持ちでしょうか?いろいろと詳しい知識が必要だったり、バーで飲むにはルールがあったりなどと、敷居が高いイメージをお持ちの方も多いのではないでしょうか?

実際はそのようなことは全くなく、リラックスして自由気ままにさまざまな愉しみ方ができる飲みものなのです。

私の肩書であるマスターブレンダーという職業は、原酒を選び、ブレンディングによっておいしい商品をつくりあげることが重要なミッションです。

しかしながら、それはブレンダーの役割のほんの一部。ブレンダーの本来の役割は、ウイスキーの味をつくりながら、その品質を見守ると同時に10年〜20年先を見据えた原酒づくりに取り組み、将来へ繋げることにあります。そして、お客様へウイスキーの魅力をお伝えする「水先案内人」という役割も担っているのです。

今回、連載のタイトルを「Blend Your Curiosity」としました。
このタイトルにした理由はふたつの思いからです。ひとつは、私自身がウイスキーブレンダーとして関わってきた中での発見や魅了されたことをエピソードをまじえてご紹介し、みなさんのウイスキーへの“好奇心”をくすぐっていくこと。もうひとつは、みなさんの声に耳を傾け“好奇心”をブレンドさせながら、一緒に新しいウイスキーの愉しみを見つけていくこと。そんな思いからこのタイトルにしました。

くわしくは次回以降ゆっくりと語っていくこととしますが、これからお伝えしていきたいテーマについて、少しだけご紹介します。

ひとつのボトルをウイスキーが満たすまでの物語

ウイスキーはしばしば「時の贈り物」と表現されます。

それは単に、ウイスキーの熟成に長い年月を要するということを意味するのではありません。原料ができるまでの時間、水が磨かれる時間、樽の材料であるオークの木が育つまでの時間、ピートができあがるまでの時間など、ウイスキーとしてみなさまのお手元に届くまでにはとても長い年月がかかっています。そしてそこには当然ながら多くの人の手間暇がかかっています。ひとつのボトルができるまでには、壮大な時間とそれにまつわる物語が詰まっているのです。

そんな長い時間の一端に私もいるわけですが、これまでのブレンダーとしてのキャリアの中で魅力的な人との出会いがたくさんありました。

たとえば「ザ・ノーズ(鼻)」の異名をもつホワイトマッカイ社のマスターブレンダーのリチャード・パターソン氏。ウイスキー業界の重鎮である彼は多忙の中、私のために原酒の試飲やディスカッションに時間を割いてくれるばかりか、私が帰る間際には「次はいつ頃来られる?」と声をかけてくれます。また、シーバスブラザーズ社の蒸溜所統括責任者アラン・ウィンチェスター氏は、私が訪れる度に「あの蒸留所の施設を見たか?」などと予定になかった蒸溜所に連れて行ってていねいに案内してくれるのです。

このような素晴らしくありがたい交流からいつも多くのことを学び、美味しいウイスキーづくりのヒントをもらっています。「時の贈り物」とはつまり、関わった人々と積み重ねた時の分だけ生まれる物語のことでもあります。この連載では、ウイスキーづくりを通じて知り合った魅力的な方たちを、エピソードを交えてご紹介したいと思っています。

ウイスキーブームとジャパニーズウイスキー

伝統ある「ジャパニーズウイスキー」ですが、世界から注目され始めたのは、意外にも2001年ごろから。国際品評会での最高賞受賞を皮切りに、世界から注目されるようになりました。その後日本国内においても、ハイボールブームが起き、ウイスキーは一気に日本人の日常に浸透しました。この10年間で日本のウイスキーの消費量は倍増し、その勢いは今もなお続いているのです。

また、今は世界中でウイスキーブームが起こっています。昨今のビールのクラフトブームと呼応するように、世界中のあちらこちらに小規模蒸溜所がつぎつぎと生まれており、今や世界中で1,600ものクラフト蒸溜所があると言われています。

日本でもこのブームに乗るような形でクラフトが増え始めており、その動向にも注目が集まっています。

今後連載の中で、ジャパニーズウイスキーが世界で評価されている理由について掘り下げていくとともに、その魅力についてじっくりとお伝えしていく予定です。

お客様との交流がこの連載に導いてくれた

先ほど、マスターブレンダーという仕事は「水先案内人」とお伝えしました。その名の通り、実際にお客様を蒸溜所に案内したり、セミナーを開いたりしてウイスキーの魅力を直接お伝えしています。

以前、蒸溜所のウイスキーセミナーで、樽から直接注いだ50度のウイスキー原酒の試飲会をしたときのことです。セミナー終了後、参加者のひとりの若い女性が、私のところへやってきて、「ウイスキーがとっても美味しく感じられました」と嬉しそうに話してくれました。その方は、それまでウイスキーを全く飲んだことがなかったそうで、強いお酒は苦手だともおっしゃっていました。

そのときの感動は今でもありありと思い出せます。
そして同時に思うのです。ウイスキーの「水先案内人」として、これまでウイスキーに触れてこなかった方たちにもっと魅力を伝えてゆきたいと。この連載を通して、ひとりでもウイスキーを飲んでみたいと思っていただける方が増えれば、私にとってこれ以上の喜びはありません。

一緒にウイスキーの世界を散策しませんか?

これから連載でお伝えしていく内容をかいつまんでご紹介しました。自らを「水先案内人」と名乗っているものの、私自身まだまだウイスキーの魅力を探究している道なかばにいます。

先ほど、この連載は「みなさんと好奇心をブレンドしたい」とお伝えしました。ここまでお読みいただいて、少しでも好奇心をくすぐられたなら、ぜひ私と一緒にウイスキーの奥深い世界を散策しませんか。

さて、次回のテーマは「時間」です。
ウイスキーは“時の贈り物”と表現されることに触れましたが、そのあたりについてもう少し詳しくお伝えすることにします。

お楽しみに。