つくり手が語る、シーンで愉しむクラフトビール

2017.12.14

情報感度が高い人を中心とした一部のブームではなく、今やひとつのジャンルとして定着しつつあるクラフトビール。個性的な味わいや、種類の豊富さ、つくり手のこだわりなど、その魅力は多岐に渡ります。しかし、原料や醸造方法の組み合わせによって100種類以上もあるというビアスタイルの中から、自分の好みに合った一杯を見つけ出すのは簡単なことではありません。そこで今回は、クラフトビールのスペシャリストである3人のブルワーの方にお集まりいただき、その魅力や選び方のコツなどについて伺いました。ブルワリーの枠を越え、さまざまなシーンごとのオススメ銘柄も選出していただいたので、クラフトビールの新たな魅力に触れることができますよ。この記事を読み終わった後、きっとクラフトビールを自分の手で選んでみたくなっているはずです。

【SVB(スプリングバレーブルワリー)】蒲生 徹さん

キリンビール株式会社 マーケティング部 商品開発研究所 新価値創造グループ。学生時代に旅行先のチェコで日本と異なるビールと出会ったのをきっかけに酒造の道へ。クラフトビールの開発担当として「グランドキリン」や、SVBの「496」などを開発した。

【横浜ベイブルーイング】鈴木 真也さん

横浜ベイブルーイング 代表取締役・醸造責任者。地元・横浜で2012年からオリジナルビールの製造を開始。2014年には代表作「ベイピルスナー」が、チェコ最大のビール審査会「GOLD BREWERS SEAL」で優勝を果たした。

【木内酒造】谷 幸治さん

木内酒造 常陸野ネストビール 醸造責任者。「ものづくりの仕事をしたい」という想いを実現するために、保険会社の営業職から醸造の世界に転身。ブルワーとして常陸野ネストビールの醸造を担当しつつ、人材の育成にも携わっている。

3人のブルワーが語るクラフトビールの魅力

クラフトビールの魅力は、まずなんと言ってもその多様性です。スタイルがたくさんあって、アルコール度数もさまざま、苦味の振れ幅も大きい。たとえ同じスタイルのビールでもブルワリーが違えばまったく違う。
いろいろな味わいに出会えるのがクラフトビール最大の魅力という点は、3人とも共通の見解でした。

加えて、そのビールが持つ”ストーリー性”も魅力のひとつであると語ってくれたのは木内酒造の谷さんです。
「うちの武器は”田舎”なんですよ。その土地にある歴史だったり、伝統だったり、ローカル性といったものを経営資源として、すべてに説明が与えられるビールをつくっています。ストーリー性や必然性が込められていて、その場所でしかつくれない個性があるというのが、クラフトビールの魅力ですね」

自分好みの一杯に出会うクラフトビール選びのポイント

自分好みのクラフトビールに出会うための選び方のポイントを伺うと、蒲生さんは、苦味とアルコール度数という2つのポイントを挙げてくれました。

「やはりビールは、苦味が他のお酒にはない特徴だと思うので、それを軸にして選ぶのがひとつのポイントだと思います。例えば、苦味が好きな方にはIPAが合うと思いますし、あまり得意でない方はヴァイツェンなどがおすすめですね。他のお酒に比べるとアルコール度数は低いですが、4%から10%くらいまでの振れ幅があるので、これも好みのクラフトビールを選ぶ際にひとつの基準になるかと思います」

クラフトビールの選び方について、谷さんは「まずはブルワリーですね。ブルワリーごとの個性というものがあるので、種類は違っても同じブルワリーのビールには共通点があります。気に入ったブルワリーが見つかったら、新しい商品も試してみると好みのビールに出会えると思います」というご意見。

その他にも、「ラベルには材料やアルコール度数のほかに、スタイルやビールの色なども記載されているので、読んでみると中味がイメージできると思います」と、ラベルを見るという選び方も教えてくれました。

鈴木さん流のクラフトビール選びのポイントは、「とにかく、たくさん飲んでみること」だとか。ご自身も気になるクラフトビールがあると、現地まで足を運んで飲んでみるそうです。

自分好みのクラフトビールに出会うためには、さまざまな種類を飲んでみるのが一番の近道なのかもしれません。

シーンで選ぶオススメのクラフトビール

インタビューに続いては、3社のブルワリーでつくられたクラフトビールを中心に飲み比べ。ブルワリーという垣根を越え、各社の商品について本音で語り合いながら、さまざまなシーンでオススメしたいクラフトビールを選出していただきました。

今回飲み比べたビールは、こちらの12銘柄です。果たしてブルワーたちはどのようなビールを選ぶのでしょうか?
まずはこちらのテーマです。

蒲生さん(以下、敬称略):「女性にはフルーティなものや、香り高いクラフトビールがいいのではないでしょうか。『だいだいエール』は女性も飲みやすいビールだと思います。スタイルでいえばヴァイツェンもいいかもしれないですね。酵母由来のフルーティな香りが愉しめるので。『ベイヴァイス』も女性にはオススメです」

谷さん(以下、敬称略):「アルコール度数が高くない、苦味が少ない、あとは色がきれいなビールがオススメですね。真っ黒とかよりは、薄い色の方がいいかなと。そういう観点でいくと、たしかに『ベイヴァイス』はいいですよね。柔らかい味わいなので。自社製品でいえば、女性には『ホワイトエール』がオススメです」

鈴木さん(以下、敬称略):「僕は、ここにはありませんがSVBの『Daydream』がいいと思います。ゆずや山椒といった日本人に馴染みやすい素材が使われているのと、苦味がなくスッと飲めるという特徴が、女性にはいいかなと。あとは、常陸野ネストビールの『ホワイトエール』も、飲みやすくてオススメです」

さまざまなビールの名前が飛び交いましたが、軽さや色味、フルーティな香りなどのバランス感から、選出されたのは「常陸野ネストビール ホワイトエール」でした。


続いては、こちら。

蒲生:「スモーキーなナッツには、ヴァイツェンが合うと思います。ヴァイツェンにもスモーキーな香りが含まれているので。あとは、濃い味のビールですね。『Afterdark』のロースト感も、ナッツには合うと思います」

谷:「スモーキーなフェノール(※)の香りがするクラフトビールが合うと思います。ヴァイツェンですかね。『ニッポニア』もフェノールを出す酵母を使っているのでナッツに合うと思います。あとは、濃い味のものですかね。食事の後にゆっくり飲める『Afterdark』もいいと思います」

鈴木:「黒系のビールが合うと思います。深い味わいの『ニッポニア』はオススメですね」

こちらは最初から2銘柄に絞られましたが、最終的には「Afterdark」のロースト感に票が集まりました。

※ クローブ様の香りとも言われ、ヴァイツェンの特徴的な香りのひとつ。


続いては、なかなか味わえないこんなシーンから。

蒲生:「休みの日には個性豊かな味を愉しみたいので、『グランドキリン IPA(インディア・ペールエール)』がいいかなと思います。あと、ゆっくり飲むならば、『ニッポニア』もいいですね。非日常感がありますし、アルコール度数も高いので」

谷:「今日は飲むぞという日は、刺激があるビールがいいですね。『グランドキリン IPA』は、ピリッと刺激があって、太陽の下で飲むには最高だと思います。『グランドキリン JPL(ジャパン・ペールラガー)』も、シャキッと香るビールなので昼間に飲むにはいいですね」

鈴木:「僕も、今日は飲むぞという日は、強くてホッピーなクラフトビールを飲みたいですね。僕だったら、何も気にせずに『グランドキリン IPA』を飲みますね。以前、河原でバーベキューをしたときも、IPAが一番人気でした」

こちらは満場一致となりました。


続いて、昼間とは真逆のこちら。

蒲生:「このシチュエーションだと、味が濃くて、アルコール度数も高めなクラフトビールがいいと思います。アルコール8%の『ニッポニア』や、6.5%の『496』がいいのではないでしょうか。ゆっくり飲めますし」

谷:「夜中に映画を見ながらだと、アルコール度数が高くて、味が豊かなクラフトビールを飲みたいですね。『Afterdark』とか、『ニッポニア』とか。濃縮感やトロッとした甘みがあって、ゆっくり味わいながら飲めるものがいいと思います」

鈴木:「あまり夜中にひとりで映画を見ることはないですが、夜にひとりで飲むなら『496』ですね。これを飲んでから、ウイスキーに移行するというような飲み方がいいかもしれません」

個性の強いビール同士の対決となりましたが、最終的にはフリースタイルを貫く「ニッポニア」が1位に選出されました。


続いて、ちょっと変わったテーマです。

蒲生:「こういうときには、敢えて苦いビールがいいかなと思います。自分が落ち込んでいたら、きっと苦いビールを飲みますね。ほろ苦い経験を受け止めつつ、しみじみと苦いビールを。そうだとすれば、オススメは『グランドキリン IPA』もしくは『496』ですかね」

谷:「私はピルスナーがいいと思います。『ベイピルスナー』ですかね。スッキリしたピルスナーをグッと飲んで、一切合切きれいに洗い流す。心を洗浄するためには、ピルスナーがいいでしょう」

鈴木:「僕もピルスナーですね。落ち込んでいるときには、飲みやすいピルスナーをグイグイ飲むのが一番ですから(笑)」

さすが、ビールによる”励まし方”にもブルワーらしい個性が表れた3人でした。


最後は、おめでたいこちらのテーマで締めます。

蒲生:「私は毎年、常陸野ネストビールの『賀正エール』を飲んでいます」

鈴木:「僕もビール初めは『賀正エール』と決めています」

谷:「ありがとうございます(笑)。私は、ここにあるビールだったら『グランドキリン JPL』もいいかなと思います。ラベルのデザインが初日の出みたいな感じで、おめでたい気分になるので」

ラベルも、飲みたい気分を左右する大切な要素ですね。

飲み比べて広がるクラフトビールの愉しみ

原料や醸造方法はもちろん、使用するグラスの形や注ぎ方によっても味わいが変化するクラフトビール。

スタイルの多さはもちろんのこと、たとえ同じスタイルのビールであっても、ブルワリーの"個性"によって味わいがまったく違うという奥が深い世界です。
様々な種類を飲み比べて自分が好きなビールが分かってくると、それだけで一段とクラフトビールが愉しくなります。
最高に自分好みのビールに出会えた時は、喜びもひとしおですよ。