「アルテ」と「エゴ」、双子のワインが生まれた理由

2017.10.26

フランスワインの新たな黄金郷として国内外の注目を浴びている、南仏ルーシヨン地方。そこには、フランス最大のオーガニックとビオディナミ(※)を実践しているワイナリー「ドメーヌ・カズ」があります。そして、彼らが平均樹齢約80年のブドウから造るワインが、世界の三つ星レストランでの採用も多い「アルテ」と「エゴ」です。今回は、その魅力を、「ドメーヌ・カズ」のジェネラル・マネージャー、リオネル・ラヴァイユ氏に伺いました。※ “究極のオーガニック農法”とも言われ、化学肥料や農薬を使用せず、月の動きなど自然界のリズムに沿ってワイン造りを行うこと。

名前の由来はラテン語から。

ラテン語に“分身”または“もう一人の自分”という意味の「アルテ・エゴ」という言葉があります。
「アルテ」と「エゴ」は、いずれも南仏を代表するブドウ品種であるシラー、グルナッシュ、ムールヴェードルを用いていますが、異なる熟成方法を採ることで、ふたつのワインとして生まれました。
はじめに、このワインの名前の由来をお伺いすると、「このふたつのワインは、生まれ(ブドウ品種)は同じですが、育てられ方(熟成方法)が異なり、最終的にそれぞれに魅力的なふたつのワインになっているからです。」とリオネル氏。

まさに双子のような関係にあるワイン。では、それぞれの魅力とは何なのでしょうか?

「エゴ」のしなやかさと「アルテ」の力強さ

ワイン造りにおいて最も重要なのはテロワール(※)。とりわけ、“土壌”が大きく影響しているというリオネル氏。ルーシヨン地方は大きく分けて丸石と石灰岩の地域があり、この土壌の違いもさらにこのふたつのワインの味わいや性格に大きな影響を与えています。

※ ブドウ畑のある土地の性質。一般的に、ブドウ畑の土壌、地勢、気候、人的要因などにより総合的に形成されるもの。

リオネル氏:(以下、リオネル)
「『エゴ』は丸石の多い区画で育ったブドウを使い、ステンレスタンクで18カ月熟成させます。それにより、フレッシュかつエレガントで、土壌の特徴が素直に表れた魅力溢れるワインに仕上がっています。紫がかったダークルビーのワインは、生き生きとしたふくよかな香り、カシスやブラックベリーのような黒系果実のリキュール、そして濃縮したプルーンのような香りを持っています。エレガントさに加えスパイシーさもあり、鶏肉などの淡白な肉との相性が良く、14度ぐらいに冷やして愉しんでほしいワインです。」

リオネル:
「『アルテ』は石灰岩土壌の区画のブドウを使っています。さらにワインの2/3を12カ月フレンチオーク樽で熟成させます。こちらは青みのある濃いガーネット色をしていて、カシスやブラックベリー、プルーンを思わせる芳醇な果実香があり、第一印象は滑らかで、そして程よい酸味と豊かな果実味が口の中に優しくあふれます。穏やかなタンニンの余韻もあって、牛肉料理やバーベキューなどしっかりしたコクのある肉料理との相性が抜群です。」

リオネル:
「私たちは、2世代前までは甘口のワインを主に造っていましたが、現在は、その当時のブドウの木をそのまま引き継ぎながら、辛口ワインも多く手掛けるようになりました。ルーシヨン地方は、フランスの中では比較的ワイン造りの歴史が浅い地方ではありますが、私たちが刻んできた歴史や土壌を反映したオンリーワンの味わいをしっかり表現できるワイン造りを心がけてきました。その中で誕生したのが、『アルテ』と『エゴ』なのです。そのため、『ドメーヌ・カズ』にとってこのふたつのワインはとても大事な存在です。」

三つ星レストランに愛されている理由

1960年以来300以上のメダルを獲得してきた「ドメーヌ・カズ」ですが、「アルテ」と「エゴ」についても1963年以来多数の受賞歴があり、直近では日本の「サクラアワード2017」で両ワインともに金賞を受賞しています。

リオネル:
「著名なレストランに採用していただいている理由はいくつかあると思います。1番に挙げられるのは、ビオディナミが、今最大のトレンドだということです。有名レストランのシェフたちは、造り手の顔が見える、フレッシュでクオリティの高い食材を求めており、それはワインに対しても同様です。信頼できる造り手のワインが強く求められています。また、食のライト化が進みシェフたちが世代交代のタイミングを迎える中で、いわゆるワインの三大銘醸地であるボルドー、ブルゴーニュ、シャンパーニュに留まらず、新しくて親しみやすく、かつ高品質なワインが求められるようになっているからです。」

フランス最大のオーガニックとビオディナミを実践している「ドメーヌ・カズ」だからこそ、シェフたちからの厚い信頼があり、彼らのつくる料理の新しいパートナーとして「アルテ」と「エゴ」が選ばれているのです。

同じ樹齢約80年のブドウを用い、異なる熟成を経て造られる、双子のようなワイン、「アルテ」と「エゴ」。
解き放たれる香りや味わいによって、静かに雄弁にその個性の違いを語りかけてきます。
グラスに注ぎ、それぞれの個性とゆっくり対話してみてはいかがでしょうか。

取材協力

Rose Bakery

イギリス人のローズ・カッラリーニと、フランス人で夫のジャン=シャルル・カッラリーニが、2002年にパリのマルティル通りで始めた「ローズベーカリー」。
新鮮な野菜や穀物など、素材の持ち味を引きだすシンプルでナチュラルな料理と、オリジナルのイギリス菓子を提供するローズベーカリーは、あらゆるレストランがひしめくパリでも、当時“ありそうでなかった”お店でした。シンプルかつ自分の生き方を大切にする「ブルジョア・ボヘミアン(ボボ)」に絶大な人気を博し、瞬く間に人気店となりました。