カテゴリーを超越する完成度。特別なシングルグレーン「50th Anniversary Editon」誕生。

2024.05.31

キリン富士御殿場蒸溜所でブレンダーを務める竹重元気氏に、編集長・土屋守氏がインタビュー。
3タイプのグレーン原酒の特長と、今夏全世界計6,000本限定で発売される50th Anniversary Edition第3弾
「シングルグレーンジャパニーズウイスキー 富士」について話を聞いた。
文=小川裕子 写真=藤田明弓

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※当記事はウイスキー文化研究所発行の「ウイスキーガロア 44号」に掲載されている内容からの引用記事となります。
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プロフィール

土屋 守

1954年新潟県佐渡生まれ。1987年から1993年の駐英取材経験を基にウイスキージャーナリストとして活動し、帰国後にウイスキー文化研究所(当時はスコッチ文化研究所)を立ち上げる。各地での講演や執筆活動、資格試験やイベントの企画運営を通じて、日本にウイスキーとその文化を広めるため精力的に活動している。NHK連続テレビ小説「マッサン」ではウイスキー考証として監修にあたり、「東京ウイスキー&スピリッツコンペティション(TWSC)」の実行委員長を務めるなど、活動の場をさらに広げている。
『完全版シングルモルトスコッチ大全』(小学館)、『竹鶴政孝とウイスキー』(東京書籍)、など著書多数。隔月刊誌『Whisky Galore』の編集長を務める。

プロフィール

竹重 元気

2006年「キリンビール株式会社」入社。2009年まで主に焼酎の技術開発に従事。2010年から商品開発研究所に移り、RTD(缶チューハイ)の新商品開発を中心に活躍。田中城太が米国ケンタッキーの蒸留所で勤務していた際に蒸留所を訪ねた経験などから、ウイスキーの世界に魅了され、2018年に富士御殿場蒸溜所のブレンダーに就任。「富士」「陸」のブレンドを担当し、よりおいしいウイスキーの飲み方なども発信している。


世界で唯一のこだわり
3タイプのグレーン原酒をつくり分け

土屋:まずは改めて、キリンのグレーンウイスキーの特長について教えてください。

竹重:富士御殿場蒸溜所は操業開始以来、日本の風土と食文化に合った「クリーン&エステリー」なウイスキーを理想としてきました。これはグレーンウイスキーについても同様で、日本、そのなかでも富士山の麓という環境だからこそつくれる、清らかで華やかなグレーンウイスキーを目指しています。

土屋:グレーンウイスキーといえば一般的に、ブレンデッドウイスキーの材料、モルトウイスキーの引き立て役というイメージが強いですよね。日本のほかのメーカーがつくるグレーンウイスキーも、基本的にはブレンデッドの原酒、いわばスコッチタイプのグレーンウイスキーが主流です。

竹重:富士御殿場蒸溜所でもスコッチタイプのグレーンはもちろんつくっていて、社内ではライトグレーンと呼んでいます。 さらに、当蒸留所がシーグラム社、シーバスブラザース社との合弁によりウイスキー事業が始まったという背景もあり、シーグラム社のカナディアンウイスキー製造技術を活かしてつくるミディアムタイプのグレーン、バーボン製造技術を活かしてつくるヘビータイプのグレーンもつくっています。

土屋:味や香りが豊かに感じられるミディアムグレーンがカナディアンタイプ、香味が最も強く感じられるヘビーグレーンがバーボンタイプのグレーンというわけですね。先ほど実際に蒸留設備を見ながら3タイプのグレーンウイスキーのつくり分けについて伺いましたが、それぞれ蒸留工程がまったく異なり、複雑であることに驚きました。あのグレーンウイスキーの蒸留設備は世界で唯一といっていいでしょうね。

竹重:ありがとうございます。ライト、ミディアム、ヘビーの3タイプのグレーン原酒をご用意しましたので、ぜひテイスティングしてみてください。まずはライトグレーンです。こちらは主原料がコーンで、2014年に蒸留したものになります。

土屋:まさにクリーン&エステリーですね。ライトグレーン、つまりはスコッチタイプというわけですが、スコッチのグレーンに比べると香味のコンテンツは多いように感じます。

竹重:そうですね。一般的なグレーンに比べると香味がしっかりありながらも、スムースな味わいに感じられると思います。ライトグレーンは当社のグレーンウイスキーの味わいのベースや、ほかの原酒の香りを引き上げる役割を担っています。次のミディアムグレーンは2012年に蒸留したものです。

土屋:スコッチタイプとは香りがまるで違いますね。口に含むと甘さもあってクリーミーです。カナディアンタイプだからというわけではないと思いますが、メープルシロップの要素も感じます。

竹重:先ほどのライトグレーンに比べるとテクスチャーがあるかと思います。

土屋:香りも芳醇で、奥のほうにスミレの花のような香りもあります。

竹重:もう少し熟成させるとブドウの要素が出てきて、ワインやコニャックに通じるキャラクターが感じられるようになります。

土屋:非常においしいですね。

竹重:ありがとうございます。3本目は2015年に蒸留したヘビーグレーンです。

土屋:飲んですぐ、ライ麦由来のオイリーさとスパイシーさを感じます。これはたしかにバーボンタイプのグレーンですね。ただ、バーボンのなかでもわりと上品な印象を受けます。

竹重:はい。バーボンといってもいろいろなタイプがありますが、当蒸留所としてはできるだけフルーティな要素をとり、フーゼルのような重めの香り成分は残らないようにしています。

土屋:こうして3タイプを飲み比べてみると、味も香りも見事に違うことがわかり、非常に興味深いですね。特に印象的なのがカナディアンタイプ。ミディアムという位置づけですが、単に「中間」というわけではなく、これひとつで十分に風味が際立っていることに感銘を受けました。グレーンにもこれだけ違いがあること、それが富士御殿場蒸溜所というひとつの蒸留所でつくられていることに、皆さん間違いなく驚かれるはずです。


カテゴリーを超越する完成度
特別なシングルグレーン誕生

土屋:富士御殿場蒸溜所は2023年に操業50周年を迎えられ、それを記念して「キリン シングルモルトジャパニーズウイスキー 富士50th Anniversary Edition」「キリン シングルブレンデッドジャパニーズウイスキー 富士 50th Anniversary Edition」を発売されました。

竹重:はい。どちらも、蒸留所操業開始年の1973年蒸留の原酒をはじめ、1970・1980・1990・2000・2010年代の各年代に蒸留された、えりすぐりのモルトとグレーン原酒を使用しています。

土屋:今年はその第3弾、いわば大トリとして「キリン シングルグレーンジャパニーズウイスキー 富士50th Anniversary Edition」が発売されるんですよね。

竹重:そうなんです。こちらは、1970年代蒸留の原酒から3つのタイプのグレーン原酒をすべて使用し、それ以降の1980年代・1990年代・2000年代・2010年代の各年代の原酒をブレンドしています。

土屋:富士御殿場蒸溜所にしかつくれない、スペシャルなシングルグレーンですね! では早速テイスティングさせてください。…華やかでフルーティで、スミレのキャラクターもありますね。これはミディアムのカナディアンタイプに由来しているんでしょうね。

竹重:はい。今回の50周年記念のシングルグレーンはミディアムグレーンの比率が高めになっています。

土屋:3タイプのグレーン原酒をブレンドしているのが非常に効いています。ブレンドするにあたり苦労した点はありますか?

竹重:熟成が50年近い原酒から10年程度の原酒まで幅広くブレンドしていますので、個性は出しつつも全体のバランスをとることには苦労しました。

土屋:なるほど。でも、竹重さんのその苦労は見事に結実していると思いますね。長熟のグレーンウイスキーを使ったシングルグレーンはこれまでに何度も飲んでいますが、たとえばスコッチタイプのグレーンだけを使っていては、これほどの奥行きは表現できないでしょう。

竹重:いろいろな香りと味が複層的にからみあい、華やかさもあり、神秘的な要素もあるという、富士御殿場蒸溜所だからこそつくれるウイスキーになったのではないかと思います。

土屋:クリーンさ、みずみずしさも内包されていて、私たち消費者が持っているグレーンウイスキーのイメージを完全に超越しています。グレーンウイスキーというカテゴリーを超えてしまっているといっても過言ではない。まさに富士の恵み、「ザ・富士山」。そんな唯一無二の仕上がりになっていますね。

竹重:そういっていただけるとうれしいですね。

土屋:それでは最後に、竹重さん、そして富士御殿場蒸溜所のこれからの展望をお聞かせいただけますか。

竹重:富士御殿場蒸溜所が目指す「クリーン&エステリー」には終わりがないと思っています。特にエステリーの解釈、表現についてはまだまだ可能性があると考えています。シングルモルト、ブレンデッド、シングルグレーンというカテゴリーにかかわらず、当社のウイスキーを飲んで富士山の神聖さや雄大さも感じていただけたら、ブレンダー冥利に尽きます。

土屋:今回はグレーンウイスキー特集ということでグレーンウイスキーについて取材、試飲させていただきましたが、富士御殿場蒸溜所のポテンシャルの高さを再認識しました。
霊峰・富士のように、富士御殿場蒸溜所のウイスキーは今後ますます世界を魅了することでしょう。本日はありがとうございました。


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