富士御殿場蒸溜所だからこそ実現した、シングルブレンデッドとは?

2022.06.03

2020年に登場した「富士」ブランドに、今年6月から新定番として加わる「キリン シングルブレンデッドジャパニーズウイスキー 富士」。さらには4月に1000本限定でリリースされた「キリン シングルブレンデッドジャパニーズウイスキー 富士 2022マスターピース」と、マスターブレンダーである田中城太氏の「ウイスキー殿堂入り」を記念して、土屋編集長がインタビュー。新商品やキリンが目指すウイスキー造り、そしてジャパニーズウイスキーの未来について聞いた。
文=西田嘉孝 写真=藤田明弓

※当記事はウイスキー文化研究所発行の「ウイスキーガロア 32号」に掲載されている内容からの引用記事となります。
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プロフィール

土屋 守

1954年新潟県佐渡生まれ。1987年から1993年の駐英取材経験を基にウイスキージャーナリストとして活動し、帰国後にウイスキー文化研究所(当時はスコッチ文化研究所)を立ち上げる。各地での講演や執筆活動、資格試験やイベントの企画運営を通じて、日本にウイスキーとその文化を広めるため精力的に活動している。NHK連続テレビ小説「マッサン」ではウイスキー考証として監修にあたり、「東京ウイスキー&スピリッツコンペティション(TWSC)」の実行委員長を務めるなど、活動の場をさらに広げている。
『完全版シングルモルトスコッチ大全』(小学館)、『竹鶴政孝とウイスキー』(東京書籍)、など著書多数。隔月刊誌『Whisky Galore』の編集長を務める。

プロフィール

田中 城太

1962年、京都府京都市出身。1988年、「キリンビール株式会社」に入社。1989年にナパバレーのワイナリーに勤務後、カリフォルニア大学デービス校大学院修士課程を終了。1995年に帰国し、ワイン・その他の洋酒業務を担当する。2002年に再度渡米し、ケンタッキー州のフォアローゼズ蒸溜所にてバーボン製造および商品開発全般に携わる。帰国した2009年からは、キリンビール商品開発研究所でブレンダー業務に従事し、2010年にチーフブレンダーに、2017年にはマスターブレンダーに就任。同年、「パラグラフ・パブリッシング社」が主催する世界的ウイスキー・アワード「アイコンズ・オブ・ウイスキー(IOW)2017」において「マスターディスティラー/マスターブレンダ―・オブ・ザ・イヤー」を受賞。


キリンが考えるウイスキーのテロワール

土屋:今年の1月に約2年半ぶりに御殿場蒸溜所を訪れることができましたが、新しいポットスチルや木桶発酵槽の導入など、数々の新たな試みをされていました。まずは御殿場蒸溜所で目指す今後のウイスキー造りについて、お聞かせいただけますか?

田中:我々が蒸留所の創業時から掲げる「クリーン&エステリー」という味わいのポリシーは、今後も大切にしつつ、グレーンウイスキーとは別に、モルトの部分でもさらに多様性を出せるはずだと。我々が目指すのはクリーンで華やかな香りのウイスキー。透明感のある味わいをベースとしながら、その中でより豊かでフルーティなフレーバーをお客様に楽しんでいただくためにも、モルト原酒の多様性を追求していくべきだと考えたのです。

土屋:透明感のあるピュアな味わいという点では、仕込水である富士の伏流水が効いているのですか?

田中:もちろん水は重要ですが、それだけがすべてではなく、やはり仕込みや発酵、蒸留といった各工程で、どれだけ細部にこだわり、ウイスキーを造り込んでいくかが大切だと思います。加えて言えば一年を通して冷涼でありながら、駿河湾から箱根山を越えて湿気が流れ込み、夏場は湿度が90%以上になるほど湿潤な気候だったり、御殿場の自然の恵みを活かしたウイスキー造りを我々は大切にしてきました。原酒の仕込みから蒸留、熟成、そして瓶詰めまでを、すべて一つの蒸留所で行うのは、我々にとっては当たり前のことですが、世界の多くのシングルモルトはそうではありません。操業開始当時から同じ思想のもと、富士山のふもとで一貫して造ってきたウイスキー。これこそが我々が世界に誇れるものではないかと考え、辿り着いたのが今回の新商品である「シングルブレンデッド」だったのです。

土屋:モルトウイスキーもグレーンウイスキーも、そして熟成から瓶詰めまで、すべてを一つの場所で完結させたウイスキーは世界にもないかもしれません。テロワールを考えたとき、日本のクラフトウイスキーではローカルの大麦にこだわるところが多いですが、キリンの場合はそうではないですよね。

田中:もちろんどちらが良いという話ではありませんが、長く熟成させるウイスキーにおけるテロワールとは何か。そう考えたときに我々の場合は、原料ができた場所ではなく、ウイスキーを造り、育てた富士山のふもとという場所や、その場所で原酒が過ごした時間の偉大さの方に、価値を見出したということです。

土屋:水はもちろん、空気の揺らぎであったり刻々と変わる気象条件であったり、私もまさにウイスキーの場合はそれこそがテロワールだと思います。そうした御殿場のテロワールを反映した新たな商品が、6月に定番品としてリリースされる「シングルブレンデッドジャパニーズウイスキー 富士」ですね。

田中:その通りです。富士ブランドで目指すのは、美しく気品のあるビューティフル〞なウイスキー。新たな「シングルブレンデッドジャパニーズウイスキー 富士」では、ヘビー、ミディアム、ライトという3タイプのグレーン原酒と複数のモルト原酒を、美しいハーモニーを生むようにブレンドしています。


日本的な美を体現するシングルブレンデッド

土屋:ではまず「シングルブレンデッドジャパニーズウイスキー 富士」。香りはフルーティで、バーボンのような華やかさもあって、驚くほどにリッチですね。

田中:黄桃など色々なフルーツを感じていただけるかと思います。富士山から受ける印象のような「美しい味わい」に加え、熟成感という点も強く意識しました。たとえば海外ではディスティラリーキャラクターなどとウイスキーの香味を表現しますが、多くの場合それはニューポットのような未熟な香味を意味します。今回の商品では、熟成を重ねたマチュアな原酒を選び、未熟香を完全に排除しています。

土屋:確かに未熟な香りが一切ありませんね。このオリジナルグラスでしばらく置いておくと、甘く香ばしい洋梨のタルトやクリームブリュレのような。凝縮された甘さがより感じられます。

土屋:一方の「シングルブレンデッドジャパニーズウイスキー 富士 2022マスターピース」、こちらはどのようなウイスキーなのですか?

田中:今回、ノンエイジのシングルブレンデッドをリリースするにあたり、御殿場蒸溜所の特長をより凝縮させた、渾身のシングルブレンデッドを出したいと考えたのです。例えば、以前リリースした「富士30年」に使ったようなバッチグレーンの長期熟成原酒など、ストックの中から厳選に厳選を重ねた原酒を使い、まさに現時点でのマスターピースとなるような、素晴らしいウイスキーになったと思います。

土屋:これは美味しい。ただただ素晴らしいの一語ですね。

田中:ありがとうございます。そう言ってもらえるのが何より一番嬉しいです。原酒でいうと1980年代のものも使用していますが、熟成が長ければいいというものでもない。こちらもビューティフルであることを意識して、長熟でもクセの出ているものなどは除いて、原酒を厳選しています。

土屋:まさに現在の御殿場蒸溜所のすべてが詰まった、1本の作品のようなウイスキー。本当に素晴らしい味わいだと思います。


ジャパニーズウイスキーの未来のために

土屋:では最後に、富士御殿場蒸溜所、そしてキリンのウイスキー造りの未来について、田中さんの想いなどをお聞かせいただけますか。

田中:蒸留所でのチャレンジもそうですが、次の50年に向けて、会社としてもウイスキー造りにより注力する姿勢を見せてくれています。そうした中で私が目指すのは、我々が造る「富士」を、日本はもちろん世界中の人たちに愛してもらうこと。先ほど土屋さんも「美味しい」と笑顔を見せてくれましたが、たとえば気持ちが豊かになったり、満たされたり。我々の味わいのポリシーであるクリーン&エステリーをベースにしながら、さらに人々の魂に訴えかけられるような原酒造りに、10年後や50年後という未来を見据えて取り組んでいきたい。御殿場蒸溜所では現在、若いスタッフたちが本当に楽しそうにウイスキー造りを行ってくれています。彼らとともに未来に向けた種まきをするのが、私の役割だと思っています。

土屋:田中さんは今年の3月に、ウイスキーマガジンが認定する「ホール・オブ・フェイム」にも選ばれました。「ウイスキーの殿堂入り」ということですね。田中さんのようにまだ現役の方が選ばれるのは珍しいようにも思いますが。

田中:ですから授賞式のスピーチで、「私はまだまだ引退はしませんよ」と宣言しました(笑)。受賞理由としては、「ジャパニーズウイスキーというカテゴリーを牽引するとともに、世界への発信にも貢献した」といったコメントをいただきました。

土屋:現役で活躍される田中さんが今回受賞されたことは、今後もジャパニーズウイスキーを牽引してほしいという期待もあったのだと思います。昨今は日本でもクラフトウイスキーの蒸留所が増えて、ある意味では何でもありの状態になっています。そうしたクラフトに対して、キリンさんのような大手の存在は、益々重要なものになってくる気がします。

田中:そう思っていますし、我々がどのような姿勢でウイスキーを造り、どのような商品をリリースしていくかで、大げさでなくジャパニーズウイスキーの未来は変わってくると思っています。そうした重責を感じながら、次の50 年、100年に向けたチャレンジを行っていきたい。近い将来にはシングルモルトのリリースも検討していますので、読者の皆さんにはぜひご期待いただきたいですね。


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