丸若屋 × SVB そぎ落とした先に見る、日本らしさとは

2017.05.11

こんにちは。日本のものづくりへの注目が世界から集まる昨今、ビールもまた、日本素材への期待が高まっています。今回、SPRING VALLEY BREWERY では日本で育種した国産ホップである「MURAKAMI SEVEN」だけを使用した同名のビールをつくりました。そこで、常日頃から日本のものづくりを世界へ向けて発信されている丸若屋代表 丸若裕俊さんをお迎えし、SVB ヘッドブリュワー福井森夫との対談が実現しました。
日本はもとより、パリでの数々のプロジェクトに加え、この春あらためて東京 渋谷に日本茶葉のお店「幻幻庵」をオープンさせた丸若さん。日本素材でつくられたお茶とビールを飲みながらどんな話が飛び出したのか、ぜひお楽しみください。


福井:実は私、学生のころから煎茶道をやっていたのですが、これは「薬瓶」ですか?こんな淹れ方もあるんですね。

丸若さん(以下敬称略):海外では、お茶のイメージがいわゆる抹茶を茶筅で立てるあのイメージとして形骸化してしまっているので、もっと違ったお茶の側面も含めて伝わりやすいようにイメージを変えていきたいなと思っていて、この薬瓶に入れた提案はその一つです。もともとお茶って“漢方”とか“健康”というところにルーツがあるので、そのイメージを想起してもらいたいと思いました。

福井:なるほど、確かに。ビールもやはり工業製品という見られ方をしていて、でも「ビールって本当は自然の素材からできている」という部分を身近に感じられる場所を考えてつくったのがここ(SPRING VALLEY BREWERY TOKYO)なんです。丸若さんは、どういったきっかけで日本のものづくりを海外に紹介されるようなお仕事をするようになったのですか?

丸若:もともと出身が横浜のほうで多文化がミックスされた土地柄だったということもあるのかもしれません。ただ、「語学留学をしたい」とかいった希望はなく、純粋な興味として地域や環境による文化の違いそのものが気になっていました。そして、表面的なカルチャーではなく、その背景にある文化みたいなところまで深く知りたいと考えるようになりました。
また、日本文化についても日本人でありながらあまり掘り下げてないかもしれないと思うようになって。ものづくりしている人たちはそんなことないんですが、一般的な理解とかけ離れているなと。

福井:ではそういう使命感から今のお仕事をされているのですか?それとも、純粋な興味に突き動かされて?

丸若:完全に純粋な興味ですね(笑)。小学生の男の子がお母さんに自分の発見したことを「ねぇねぇ」と教えたくてたまらないような感じです。

福井:私もほぼそうですね。それをいかにお客様に楽しんでいただける形にするか、というところはちょっと気遣いますが、自分が飲みたいビールを作りたい。よくお客様からも「本当にビールが好きなんですね」と言われます(笑)。本当にそういう興味に突き動かされる先に、面白い素材との組み合わせが見つかったりもするんですよね。


福井:日本らしい味わいや風味を、海外に向けても発信していきたいとは私たちも思っているのですが、日本の文化を日本でではなく海外で発信するときの工夫とか、難しい点はありますか?
丸若:そうですね。何が伝えたいのかというところだと思います。昔からの“型”みたいなものを見せるということも大事だと思うけれど、息づいている文化を発信したいとしたら、その場のシチュエーションに合わせた提案がとても重要です。

福井:お茶も昔の和室で飲んでいたのと今の現代的な環境で飲んでいるのは全然違いますしね。

丸若:はい、また日本と海外の生活のスタイルも全然違いますよね。そんな些細なところの違いをどう楽しんで提案するかが大事だなと思っていて。違いを感じた時に、どうしよう…と頭を悩ませるのではなく、もっとやれることあるよなと思うのです。一秒ごとに変わっていくモラルや常識にあまりとらわれずに、本質だけは見失わないようにしながら今提案したいシチュエーションにどうカスタマイズするかというところを考えていますね。「こうするもんだ!」と固定観念に縛られるのではなくて。

福井:ビールも飲み会ではまずはとりあえずビールから飲むとか、注ぎ方とか、様々なマナーみたいなものがあったりしますが、もっと自由でもいいじゃないかとよく社内でも話しています。

丸若:確かに。僕も今、このビール飲まさせていただいて、こういうビールを飲んだ最後に飲みたいお茶ってどんなのだろうとかと考えちゃったりしています。こういうこともお茶を畑からやるようになってよく考えるようになりました。

福井:ビールを飲んだ最後にお茶、いいですね。お茶とビールでつくるコースとかも面白そうですね。


福井:SVB のメインのビール 6 種類以外にも、私はこの「MURAKAMI SEVEN」を含め、季節限定品として年間 40 種類くらいをビールとしてつくっています。中にはフルーツやスパイス、出汁をとってつくったビールや、あと、ほうじ茶を使ったものも。もともとビールって海外からのものですが、日本の食と合うようなビールもあるはずだと思って、そういった和素材をつかった挑戦もしています。

丸若:なるほど。面白いですね。日本は素材が圧倒的に素晴らしいなと思っていて。和食や日本食って海外ですごく評価されるけど、日本食は食材に依存するところがとても大きいですよね。だからこそ、日本ではもっと素材を見直したほうがいいと思っています。デザインとかのデコラティブな部分ではなくて、素材を。

福井:私は日本は“そぎ落とし”の文化を持っていると思っています。この「MURAKAMI SEVEN」もまさに、余計なものをそぎ落とし、ホップ自体がもつみかんやイチジクのような香り、魅力をいかに引き出せるかというところに注力しましたが、とても日本的なやり方だと思っています。今の丸若さんの素材にもっとフォーカスしたほうがいいというお話からも非常に通じるところを感じました。

古くからのビール文化がある国では、ドイツやイギリス、ベルギーなど、すでにその国らしいビアスタイルが確立されていますが、日本では江戸時代に海外から入ってきたビール。SVB の「日本を感じられるビール」への挑戦はまだまだ続きます。
今回の“素材”をキーワードにした対談ではそのヒントとなるようなお話をいっぱい聞くことができました。

今後もどんな素材を使ったビールが登場するのか、楽しみにしていただけたら幸いです。

福井 森夫
(FUKUI MORIO)

SPRING VALLEY BREWERY のヘッドブリュワー。DRINXでも登場している限定ビールや店舗限定のビールなど、年間 40 種類以上のビールのレシピ開発に打ち込む。

丸若 裕俊
(MARUWAKA HIROTOSHI)

株式会社丸若屋代表。アパレル勤務などを経て、2010年に株式会社丸若屋を設立。伝統工芸から最先端の工業技術まで今ある姿に時代の空気を取り入れて再構築。2017年4月、これまでの日本茶のイメージを超え、最良の日々のお茶を提供するお茶葉屋「幻幻庵」を渋谷・宇田川にオープン。