消えゆく運命にあった日本産ホップから生まれた、日本の食卓のためのIPA

2019.06.20

他に類を見ない華やかな香りを持つ日本産ホップ『MURAKAMI SEVEN』を使ったクラフトビールが、SVBから販売されることになりました。

その名も『MURAKAMI SEVEN IPA』。

「苦味が強い」というIPAの常識を覆す、フルーティで香り高いクラフトビールです。

実は、コストの問題で処分される運命だったという『MURAKAMI SEVEN』。このホップが辿った数奇な運命と、これを使ったオリジナリティ溢れるクラフトビールについて、開発に携わったSVB東京のヘッドブリュワー・古川淳一に話を聞きました。


プロフィール

古川淳一

大学院で菌類の遺伝子に関する研究を行った後、2009年キリンビールに入社。醸造研究所(※ 当時)に配属され、ホップに関する技術開発などの業務を担当した。28歳の時には、最年少の醸造担当としてSVBの開発プロジェクトに参加。麦芽とホップに、ラズベリー果汁とワイン酵母を組み合わせたクラフトビール「JAZZBERRY」を開発した。その後3年間、キリンビール岡山工場での勤務を経て、現在はSVB東京のヘッドブリュワーとして年間数十種類ものクラフトビールを作り続けている。


処分されることが決まっていた幻の日本産ホップ

―今回発売される新商品『MURAKAMI SEVEN IPA』に使用されている『MURAKAMI SEVEN』というホップは、20年ほど前に処分される予定だったものだと聞きました。

古川:そうですね。もともとは、僕の元上司だった村上敦司という者がホップの遺伝子を研究するために育てていたものだったんです。
だけど、ホップの生産はコストがかかるので、会社としては国産品種の開発を打ち切ることにしました。それで、研究用に育てられていたホップはすべて処分されることになったんです。

―それがなぜ、今も残っているのでしょう?

古川:村上さんが、こっそり取っていたんですよ(笑)。

―えぇー!そんな数奇な運命が!

古川:「せっかく育ててきたホップを処分してしまうのはもったいない」ということで、研究用に栽培していたホップの中で特徴的な香りを持ったものを20種類選んで、岩手県江刺市にあるビール醸造研究所の畑に植え替えたんです。
その畑の7番目の畝に植えられていたことが、『MURAKAMI SEVEN』という名前の由来になりました。

―村上さんの研究者としての想いが、ひとつのホップを救ったんですね。

古川:はい。『MURAKAMI SEVEN』というホップの存在は、キリンの技術者の中では知られていたんです。すごくユニークな香りで、これまでにない面白いホップだって。
それで数年前に『MURAKAMI SEVEN』を使ったビールの試作品を作ったら、すごく美味しくて。そこでようやく注目されるようになったんです。

日本の食卓にピッタリなIPA

―『MURAKAMI SEVEN IPA』は、SVBが作るIPAとしては初めてネット販売される商品とのことですが、なぜホップに『MURAKAMI SEVEN』を使うことになったのでしょう?

古川:IPAというのはクラフトビールの中では最もポピュラーで、世界各国でたくさんの種類が作られています。いわば、クラフトビールの王道と呼べるビアスタイルです。
その中でも埋もれない商品を作るために何で勝負しようかと考えたときに、『MURAKAMI SEVEN』というホップが武器になると思ったんです。

―一度は失われかけた幻のホップが。

古川:はい。他のブルワリーでは使われていないホップだったので。ユニークで、独自の品種で、しかも日本のもの。
もし、これが広がっていけば東北の日本産ホップが盛り上がるきっかけにもなるだろうし、僕たちだけの独自の味が作れるなと。そうやって胸を張って世に出せるIPAを作りたかったんです。SVBの看板になるようなIPAを。

―『MURAKAMI SEVEN』の特徴は、どんなところですか?

古川:香りが豊かで、後味がフルーティなんです。桃やミカン、イチジクのような。
ビールを作る際にも、その特徴を活かしました。だから、『MURAKAMI SEVEN IPA』はフルーティで、あまり苦くないんですよ。

―IPAというと、苦みの強いビールというイメージありました。

古川:おっしゃる通りで、IPAって苦いんです。そこがIPAらしさとも言えます。
だけど、個人的には、あの苦味って味付けの強いアメリカの料理に合わせて作られたんじゃないかなと思っていて。料理の味が強いから、ビールもインパクトの強いものが好まれるんじゃないかと考えています。

古川:でも、僕たちはそうじゃないものを作りたかったんです。もっと、日本の食事に合うようなIPAを。そのためには、インパクトよりも、バランスが大事だと思っています。
特に今回はDRINXで販売される商品なので、広く受け入れられるクラフトビール、具体的に言えば「食事に合う」という点を意識しました。だから、IPAなんですけど苦さよりも、味わいや香りのバランスに重きを置いています。

―日本の食卓で飲まれるということを前提に。

古川:そうですね。単体で飲むシーンは、あまり考えていませんでした。
だから、ビール自体を尖った味にはせず、食事と一緒に飲まれることを想定して、ホップの個性を活かしながらもバランスのとれた味わいを目指しました。

―「苦味が強いこと」ではなく、「ホップを感じられる」ビアスタイルがIPAだということですね。

古川:僕たちは、ずっとクラフトビールを作っている会社ではありません。長年、日本人の食卓に合わせたビールを追求し続けてきた会社です。そんなキリンだからこその知見や経験がクラフトビール作りにも反映されているので、クラフトビールの従来の概念にとらわれない、フルーティでバランスの取れたIPAが作れたんだと思います。

クラフトビールを作る上で1番のプレッシャー

―『MURAKAMI SEVEN IPA』をDRINXで販売するということは、『MURAKAMI SEVEN』の生産量を増やしたということですよね?

古川:そうですね。IPAを作るためにはホップをたくさん使うので、昨年とれた分の多くは、『MURAKAMI SEVEN IPA』に使われています。だから、失敗できないんですよ。
限られた原料の中で作るから、やり直しがきかない。クラフトビールを作る上で1番のプレッシャーは、そこなんです。
もちろん試作は行っていますけど、本番もその通りにいくとは限らないんですよ。ビールは、生き物の力で発酵しているので。

―目に見えないところで、何が起きるかわからない。

古川:そうです。その点は、クラフトビールだけに限った話ではないんですけどね。
最新鋭の設備のある大きな工場だって、ボタンを押せばビールが次々とできあがっていくわけではないんです。現場では、人の手によってたくさんの細い調整が行われていて、その中で一定の品質のものを作り続けられるというのは、技術と手間と経験の積み重ねがあるからなんです。
僕は工場にいたこともあるんですけど、クラフトビール作りとは違う大変さがありました。

―ビールの研究所も、ホップ畑も、大型工場も、クラフトビールの現場も経験して、その知見と技術を集結させた上に、『MURAKAMI SEVEN IPA』ができあがったってことなんですね。

古川:そうですね。なので、かなり気合が入っていますし、自信もあります!

―発売を楽しみにしています。ありがとうございました!

古川:こちらこそ、ありがとうございました!

『MURAKAMI SEVEN IPA』が6月20日に発売!SVB東京での販売も!

これまでに飲み手の記憶に残る多種多様なクラフトビールを開発してきたSVBが挑んだ、「看板になるようなIPA」づくり。

クラフトビールの王道ともいわれるIPAに、キリンが培ってきた知見や技術、他にはない独自の香りを持つ日本産ホップ、そして常識に縛られない自由な発想を組み合わせることで、まったく新しい1杯が誕生しました。

日本のビール会社が、日本のホップを使い、日本の食卓のために作ったIPA。
「苦味が強いビール」という従来のIPAのイメージを覆すような、フルーティで華やかな香りを持つ『MURAKAMI SEVEN IPA』は、クラフトビール通を驚かせ、クラフトビールに馴染みのない方にも喜んでいただける商品になるはずです。
6月20日よりDRINXで発売開始、6月27日からSVB東京で提供を開始します。