ウイスキーの美味しさの鍵を握る「ブレンド」 [Blend Your Curiosity vol.6]

2019.05.09

「Blend Your Curiosity」は、マスターブレンダーである田中城太が、ブレンダーの仕事を通して発見したウイスキーの新しい愉しみ方をお届けする全11回の連載企画です。第6回目となる今回のテーマは「ブレンド」について。多彩な原酒をどのように組み合わせて目標とする美味しさに近づけるのか。ウイスキーの美味しさの鍵を握るブレンドについて掘り下げていきます。

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多彩な原酒を組み合わせて新しい美味しさを創り出す

ウイスキーはよく音楽にたとえられます。多種多様な楽器が奏でる音に調和が生まれ、とても深みのある音楽となるように、ウイスキーも多彩な原酒の組み合わせ、つまりブレンドによって、とても奥深い味わいになり、相通じるところがあるのです。

多彩な楽器奏者をリードして演奏をまとめ、オーケストラの実力を引き出す「指揮者」にあたる役割がウイスキーでは「ブレンダー」です。
今回はウイスキーづくりの総仕上げであり、ウイスキーの美味しさを決定づける「ブレンド」についてお伝えしたいと思います。

今や、世界中で飲まれているウイスキーの90%以上がブレンデッドウイスキーですが、そのはじまりは1860年頃のスコットランドにさかのぼることになります。当時スコッチウイスキーは、蒸溜所ごとのモルトウイスキーが個性的で荒々しく飲み難かったため地元中心に消費されていました。

それが複数のモルトウイスキーや当時新しく生まれた軽やかなタイプのグレーンウイスキーをブレンドすることによって、癖のない飲みやすいものがつくられ、徐々にスコットランド以外でも飲まれるようになり、世界中でひろく愉しまれるようになりました。

ウイスキーのブレンドには大きくふたつの目的があります。ひとつはウイスキーの品質を安定させること、そしてもうひとつは、お客様の嗜好に合わせた新しい味わいを創り出すことです。

品質を安定させるとは、商品の味のバラツキをなくし均一にすることです。ウイスキーの商品は数多くの原酒のブレンドから成っており、ひとつの原酒をとってみても、同じつくり方をしていながら、熟成を経てロットや樽毎に個性が出てきます。それらの原酒を上手にブレンドすることによって、同じ商品をいつどこで飲んでも同じ味になるようにしています。

スコッチウイスキーがひろく飲まれるようになったのは、先述したようにブレンドして飲みやすくなっただけではなく、複数の原酒をブレンドして品質が安定したことも大きな理由だったのです。

多彩な原酒どうしをブレンドすることで新しい味わいを創り出すこともブレンドの目的です。多種多様な原酒それぞれの特長を生かしながらブレンドすることで、新たな特長がシナジー効果として顕れてきます。さらにそこからテストブレンドを重ね、絶妙なバランスでブレンドすることによってハーモニーが生まれ、味に厚みが増し、個々の原酒では考えられなかった芳醇で複雑な新しい味わいを創ることができるのです。

原酒の組み合わせによっては、お互いの良いところを打ち消し合ったり、嫌な個性が出てきたりマイナス効果が出る場合も多々あります。どんな原酒どうしでもブレンドすれば良いわけではありません。これがブレンドの難しさであり、醍醐味でもあります。試してみないと判らない面があり、経験を積んだブレンダーとしての力量が試されることになります。

指揮者としてのブレンダーの仕事

ここからは多彩な原酒の特長を引き出しながら、「指揮者」となってウイスキーを味わい深い「作品」に作り上げるブレンダーの具体的な仕事内容についてご紹介します。

ブレンドの第一ステップとしてまず重要なことは、目標とする味わいのイメージやコンセプトをしっかりと描き、言葉に落し込むことです。ここがスタートでありブレンドの軸になります。

そして味わいの骨格となる原酒を選びます。一般的にはキーモルトと呼ぶように、モルト原酒を選択するのですが、富士御殿場蒸溜所では香味豊かで特長のあるグレーン原酒もキーグレーンと呼んで、味わいの骨格づくりに活用しています。そして実際のブレンディング。ブレンダーとして培ってきた経験知と想像力をフルに活かしながら、試行錯誤と工夫によって、多種多様な原酒の組み合わせとその比率を変えてテストブレンドを繰り返し、目標とする香味を目指します。

この味をつくり込む過程では、原酒単体としては決して美味しいとは言えないような独特のクセをもった原酒も使います。出来の良い綺麗な原酒だけのブレンドよりも、少しクセのある「異端児」を加えることで、ブレンドがグッと魅力的になることが往々にしてあります。

私のブレンダー経験の中で、極少量の個性的な原酒をブレンドすることで、それまでのブレンドの特長がガラッと変わったり、一見穏やかな原酒を上手く活用することで、それまでになかった味わいが生まれたりする瞬間に立ち会うことがあります。そういう体験がブレンダーとしての醍醐味であり、鳥肌が立つほど感動します。

ブレンダーが守るもの。引き継ぐもの。

ブレンダーの仕事は、先述したような新しい味を創る商品開発だけでなく、商品の味を守り続けることも重要な役割であり、時として「味の番人」とも呼ばれます。

熟成庫にはどのような香味タイプの原酒がどの程度あるのか、数年後にその原酒はどう変化しているのか、刻々と変化する原酒在庫状況の中で、原酒の熟成状態を吟味しながら使用する原酒を選び出し、ブレンドしてウイスキーの味を守り続けています。

熟成庫に眠る原酒は先達から受け継いだものも含め、数年から数十年前に造られたものです。ブレンダーはこれらの熟成原酒を使ってブレンドする一方で、将来のブレンドに必要な原酒の量をタイプ別にはじき出し、数年先から数十年後までに必要になるウイスキー原酒を準備する必要があります。
次の世代のブレンダーたちが味を守りつつ、さらに美味しく魅力的なブレンドを創れるよう、新しいタイプの原酒開発に造り手たち全員で取り組みながら、将来ための原酒の製造計画を立てています。

ブレンダーは、連綿と受け継がれてきた資産である熟成原酒を使ってブレンドするだけでなく、将来必要となる原酒を後進のブレンダーたちに準備するという、次の世代へ繋ぐ役割も担っています。

ウイスキーは、その美味しさの鍵を握るのはブレンドであり、原酒を前の世代から受け継ぎ次の世代へ繋ぐ、世代を超えたチームワークでつくるお酒なのです。

ここまで6回にわけてウイスキーづくりについてお伝えしてきました。いよいよ次回からはウイスキーの愉しみ方を掘り下げていきます。

お楽しみに。