グラスが変わるとビールの味わいが変わる

2017.10.19

最近では、様々なスタイルのビールを手に取る機会も増えました。パッケージやビールの色などの見た目はもちろんのこと、味や香りも本当にたくさんの種類があります。グラスの”形状”を変えることで、こうした多様なビールの愉しみ方の幅がより広がることをご存知でしょうか?今回は、そんなビールの新たな魅力を、ビールグラスの名門ブランド「シュピゲラウ」の「グラステイスティングセミナー」で講師を務める庄司大輔さんとともにご紹介したいと思います。

ビールの香りと味わいはグラスの形状で大きく変わる

ビールというと、ジョッキに注がれている様子が頭に浮かぶ方も多いのではないでしょうか。

味や香りが様々なビールをそれぞれ存分に愉しむには、とても大事なのがグラスの“形状”。ビールのスタイルや、味・香りをどう愉しみたいかで選ぶグラスが変わってきます。

例えば、IPAのようにホップをふんだんに使っているビールは、グラスのボトム部分はやや丸く、口の当たるトップの部分はシャープな形状のものだと華やかな香りを感じやすいです。また、口の中への入り方がスムーズなため苦味の印象は強すぎず穏やかに感じられます。

また、スタウトのような香ばしい麦の香りが特徴的なビールでは、よりボトムがふっくらしているグラスを選ぶと、コーヒーやチョコレートのような甘さと深い苦味などの複雑な味わいを堪能できます。

小麦を使ったビールに多く見られるピーチやバナナなどのフルーティな香りは、ふくよかな丸みのボトムでやや縦長ぐらいの卵型グラスがとてもよく引き出してくれます。果物の甘い香りがいつまでもグラスの中に残り、長く余韻を愉しめます。

ビールの香りや味わいは舌の角度に関係する

もうひとつグラスの形状で大事なのが、舌に当たるときの角度。

クラフトビールは、ビールが舌に流れ込む角度やスピード、舌への当たり方や口の中での広がり方で味わいが変わるのが特徴とも言われています。ビールを飲もうとグラスに口をつけ傾けたとき、どのくらいの角度でビールが飲めるかが重要で、それはグラスの形状によって異なるのです。

例えば、ワイングラスのようにボトムがふっくら、口元がややすぼまった形状のグラスの最もふくらんでいる位置から1〜2センチ下あたりまでの液量であれば、口に当ててビールが口の中に入るまでにはグラスをかなり傾けないと入ってきません。

一方、ビアパブなどで使われているとてもポピュラーなパイントグラスは、ビールを飲むときに、どうしても顔が下を向きがちに。その姿勢でビールを飲むと、ビールが舌先から口全体に広がり、人によっては苦味が特に強く感じてしまうこともあるのだとか。

自分の飲みたいビールはどんなグラスだと飲みたいタイミングで口の中に入ってきて美味しく飲めるか、を基準にグラス選びをしてみるのも良いかもしれません。

「クラフトビールは、同じビールのジャンルでもブリュワリーによってレシピが様々です。グラスを変えることで、ビールの繊細な味わいの違いをより深く愉しんでほしい」と庄司さん。

ビールの美味しい温度はグラスの厚さに関わる

ビールを美味しく飲むためにもうひとつ大事なのが温度。

冷えたビールの温度をなるべく保ったまま口まで運びたい場合、しっかりと冷やしていない分厚いグラスを使用すると、ビールの冷たさをグラスが持っている熱に奪われてしまいます。

そのため、ビールを注いでからの温度変化をなるべく少なくしたい場合は、薄いグラスを使うのがおすすめ。グラスの熱による温度変化が少なくなり、飲みたい温度で飲むことができます。

グラスによるビールの温度変化をさらに少なくしたいとき、グラスを冷蔵庫で冷やすのも良い方法ですが、場所もとれば時間もかかります。そんなときには、飲む前にグラスを冷水にくぐらせると、グラスの温度をすぐに下げることができます。

グラスを冷水にくぐらせると良い点がもうひとつ。

卵型のビールグラスは注いだビールの香りを逃がしにくくするぶん、保管しておくと様々なにおいもこもらせてしまいます。

ビールグラスを使う前には、においがこもっていないか確認するのも大切ですが、冷水にくぐらせるとこもったにおいも洗い流してくれます。

注ぎ方、香り方で変わるビールの印象

グラスを選んだら、今度はビールを注ぐステップ。

ビールを注ぐときの基本的な角度は、グラスもボトルも斜め45°。多くのビールの場合、お互いに傾け、あまり泡だてずに注いでも十分に香りが立ちます。

「ビールグラスでビールを飲むときには、ぜひ香りも一緒に味わっていただきたいですね。ふくよかな形状のグラスいっぱいに広がった香りを愉しみたいときは、顔でグラスに蓋をするように近づけるのがポイントです」と話す庄司さん。

香りや味わいの変化をより深く愉しむためにもうひとつおすすめしたいのが “スワリング”。

“スワリング”とは、グラスの中の液体をくるくると回して香りを引き出すワインのテイスティング方法のこと。

ビールは回転させ過ぎると炭酸が飛んでしまうので、グラスを少し斜めに傾け、グラスごとゆっくり一回転させます。それによってグラスの内側全体にビールの膜ができ、香りがいっそう広がるのだそう。

ビールというと苦味やキレ、コクなどの味や喉越しに注目しがちですが、一杯のビールでも、温度が変わり空気に触れることで、違う印象の香りが次々に湧き出てくるから不思議です。そんな香りの複雑な変化もぜひ愉しんでみてはいかがでしょうか。

個性豊かなビールで実践してみよう

グラスとの組み合わせでさらに広がるビールの魅力。SPRING VALLEY BREWERYのビールも普段と違うグラスで味わったらどのように印象が変わるのか、好相性のグラスを探してみました。

SPRING VALLEY BREWERYのフラッグシップである「496」。甘味・酸味・苦味の究極のバランスを追求し、強い個性と飲みやすさを両立したどのジャンルにも属さないビールですが、今回は特徴のひとつでもある、IPAのような濃密なホップ感を引き立てるため、IPAグラスを選んでみることに。

注いだ瞬間からホップのジューシーな香りが手元で弾けます。

「『496』が持つシャープな味わいや、ラガーならではの落ち着いた印象もIPAグラスで飲むことでいっそう際立ちますね」と庄司さん。

実際に、他のグラスでも飲んでみましたが、それぞれに違った香りや味わいが感じられ、とても面白みがありました。飲み比べながらお気に入りのグラスとビールの組み合わせを見つけるのも、愉しみ方のひとつ。

もうひとつは白ワインのようなフルーティな香りの「on the cloud」。大麦に加え小麦を使うことで醸し出される、柔らかく爽やかな味わいが特徴です。こちらは華やかな香りを愉しむためウィートグラスに注いでみました。

「金柑のような落ち着いたフルーティさがよく感じられます」と庄司さん。

ウィート系のビールですが、フルーツやスパイスは使っていないのでスッキリとした印象の「on the cloud」。それなのに、繊細な果物の香りを感じられるのはよりふっくらしたグラスだからこそかもしれません。



ここまでグラスによってビールの味わいが変化するということをお伝えしてきましたが、ビールグラスを長く大切に使うためには、グラスの洗い方も大切です。

特に薄いグラスは、スポンジなどでグラスの口が当たる部分を挟み、ひねって洗うと割れるリスクが高まってしまうため、スポンジを縦方向に動かして洗うようにしましょう。

他の食器などの油分がグラスに付着することを防ぐために、グラス専用のスポンジも用意できたら良いですね。

毎日家で飲み慣れたビールでも、いつもと違ったグラスに注いでみると、今まで気づかなかった新しい発見があるかもしれません。

ビールとグラスの組み合わせにルールはありません。自由な発想で愉しみながら、新たなビールの魅力に出会ってみませんか。

プロフィール

庄司 大輔 Daisuke Shoji

シュピゲラウ・ジャパン ビアグラス・エデュケイター/(社)日本ソムリエ協会認定 ソムリエ/ジャパンビアソムリエ協会認定 ビアソムリエ。
リーデル・ジャパン発足の2000年から、日本人唯一のグラス・エデュケイターとして全国でグラス・テイスティングを実施。現在は、様々な部署で活躍するグラス・エデュケイターのトップとして、また、グループ全体のテイスティング活動を統括するテイスティング・マネージャーとして、エデュテイメント(エデュケイションとエンターテイメントの融合したセミナー)活動を牽引している。