自由に、おおらかに愉しむのがイタリアワイン。ワインジャーナリスト 宮嶋 勲 × 「クリマ ディ トスカーナ」オーナーシェフ 佐藤 真一

2018.11.29

歴史、芸術、自然、グルメ。南北に長いイタリアは、地域ごとに独自の文化が花開き、訪れる場所によってその魅力はさまざま。そんなイタリアで生まれたワインは、各地の個性が色濃く反映されています。
今回は、ワインジャーナリスト・宮嶋 勲さんと「クリマ ディ トスカーナ」オーナーシェフ・佐藤 真一さんの対談を通じて、イタリアワインと食の愉しみ方をご紹介します。

宮嶋 勲さん

ワインジャーナリスト。イタリアと日本を行き来しながら、ワインと食について執筆活動を行っている。イタリアでは2004年から「エスプレッソ・イタリア ワインガイド」の試飲スタッフ、2006年からはイタリアで定評のあるグルメガイド「ガンベロ・ロッソ・レストランガイド」の執筆に携わる。

佐藤 真一さん

「クリマ・ディ・トスカーナ」オーナーシェフ。高校卒業後、都内のレストランを経て1998年にイタリアへと渡る。トスカーナを中心に、数々の三つ星、二つ星レストランで腕を磨き、帰国。2006年、南青山リストランテ イル デジデリオの総料理長に就任。2017年、「クリマ ディ トスカーナ」をオープン。ソムリエでもある。

イタリアの食卓になくてはならない存在、それがワイン

宮嶋さん(以下敬称略):イタリアにおけるワインは、常に食事と共にあり、食卓を支えるもの。食事に寄り添い、引き立てる。ガツンと自己主張するようなものではないんですよね。

佐藤さん(以下敬称略):イタリアでの修行時代、レストランの賄いでもワインが水のように出てくるんですよね。喉の渇きを満たすみたいに。彼らにとってみたら、食事を愉しむための飲みもの。それがワインなんだと思います。
だから、料理とワインがあってはじめて食卓が成立する、という宮嶋さんのお話は本当に的を射ていると思いますね。食卓では右手にグラスがないと、なんだかぎこちないし、絵にならない。飲めない人にも濃いブドウジュースを用意します。ですから、僕がつくる料理も“食卓に合う”という部分をとくに意識しています。

イタリアとフランス、ワインの違いは“融通の利き方”にあり

宮嶋:フランスだと、シェフは料理をつくる人、お客はそれを食べる人。ところが、イタリアではお客とスタッフが一緒になって愉しんじゃう。このファジーさがイタリアの良いところ。垣根がないというか。

佐藤:三つ星レストランでもシェフがテーブルまで来て、隣に座って一緒に食事を楽しむことがあります。こうした壁のなさも、すべてにおいて共通するイタリアの魅力じゃないでしょうか。

宮嶋:フランスワインと比較しても寛容であり、融通が利くのがイタリアワインの特長です。フランスでは、基本的に王宮やブルジョワジーが食卓のマナーの中で培ってきたルールがワインの中にも組み込まれています。それが広く市井の人々にも浸透して行ったんですよね。
一方でイタリアの場合は、自分たちが暮らす土地でできたワインが食卓の中で醸成されて今に至るのです。つまりは食卓のひとつの風景なんですよ。例えばランチでトラットリアを訪れると、よくすでにコルクの開いたボトルがテーブルにどんと置いてあったりします。勝手にグラスに注いで、飲んだ分だけをお客が支払うシステムなんですけど、つまりは「この料理にしか合わない」というワインはイタリアにはない。融通が利くというのはそういうことなんです。

南北の個性を知り、軽やかに愉しむ食とワイン

南北に長いイタリアでは、「村の数だけワインがある」と言われるほど多様で個性的なワインがつくられています。
ここからは、北イタリアと南イタリアのワイン、そして料理の違いについてお二人に伺っていきます。

宮嶋:北イタリアは南部と比べて冷涼なため、酸味があって、エレガントなワインになりやすいのが特長です。一方、南イタリアは気候も穏やかですから、果実味豊かな力強いワインがつくられます。

佐藤:人々の性格もワインに大きく影響していますよね。

宮嶋:そうそう、北の人間の方が几帳面なタイプが多く、比較的きっちりしたワインがつくられます。南の方がなんとなく直感的に勢いでつくる、というイメージがありますね。
例えば、北イタリアのトレンティーノ=アルト・アディジェという地域は、オーストリア圏でドイツ系イタリア人が多いのだけど、やっぱりワインもきっちりしていて申し分ないんですよ。ただね、ちょっと退屈。
ところが南へ行くと、味もバラバラで欠点だらけなのだけど、なぜか好きになってしまう魅力がある。つまり、欠点さえ個性ということですよね。

佐藤:そういうところも含めて、イタリアワインは料理との細かな組み合わせまで気にする必要はないと思っています。料理のグレードに負けないくらいのワインを持って来ればいいだけ。ざっくり合わせるくらいのイメージでいいと思うんですよ。
ウチもトスカーナのワインをメインで置いていますし、ワインペアリングもやっていますが、この料理にはこのワインというものを決めすぎないようにしています。それよりも、トスカーナワインの魅力を知ってもらいたい、もっと愉しんでもらいたいという想いが先にあるんです。

おおらかさを愉しむのが、イタリアワインの醍醐味

佐藤:今日ご用意させていただいたのは、豚の血をソーセージで固めたサングイナッチョです。合わせるワインが、北イタリア産の「ベルサーノ バルベーラ・ダスティ コスタルンガ 2015」とお聞きして、ワインの持ち味である酸味と華やかさに合わせることを意識してみました。ブドウ品種バルベーラの香りが合いますよね。

宮嶋:イタリアらしくていいですね。バルベーラはキャンティなどと同じで、食事の最初から最後までこのワインで愉しめる、どんな料理にでも寄り添う魅力がありますね。こういう甘い味も合うし、ほっこりした食感で合わせてもいい。ワインの印象も食べるものによって変わる。そんなおおらかさこそイタリアワインの身上ですしね。

佐藤:これにはこれじゃなきゃいけない!っていう考え方ではないんですよね。土地の料理と土地のワインを合わせれば、そりゃあ間違いない。だけどそれが絶対じゃないですからね。ニュアンスの幅を楽しむくらいの方がイタリアワインを愉しめると思います。

宮嶋:そうそう、ハズレの部分も含めて愉しむくらいの余裕が欲しいですね。だってイタリアですから(笑)。

佐藤:続いて、南イタリア産の「カンティーネ・ドゥエ・パルメ エッタミアーノ」には仔羊のアグロドルチェ(=甘酸っぱい煮込み料理)を合わせてみました。南のプーリア州では鉄板の組み合わせですけれど、それをトスカーナスタイルに。

宮嶋:先ほどのバルベーラが酸味とチャーミングな果実味を持っているのに対し、こちらのブドウ品種プリミティーヴォは、より重厚感があり口の中を満たしてくれるように思います。両方とも満たしてくれるけれど、その性質が違いますね。

佐藤:生クリームやバターを多用する濃厚なタイプの北イタリア料理と異なり、オリーブオイルを多用しさっぱりと仕上げるのが南イタリア料理の特長ですが、料理とワインをそれぞれの地域で固めてしまうのもイタリアらしくない。振り幅は大きくてもそのど真ん中にくる、どちらのワインとも合う料理に仕上げました。

宮嶋:輸送が今ほど簡便でなかった時代は、必然的に土地の料理には地ワインでしたけど、今はそうじゃない。大切なのはフィーリング。自由に愉しむことがいちばんですし、そういったニーズを支えてくれるのがイタリアワインだということです。

宮嶋:イタリアには「トゥットパスト(=すべての食事)」という言葉があります。先ほどのバルベーラのように、最初から最後までそれ1本で食事ができてしまう、どんな料理にでも合ってしまうイタリアワインの説明によく使われる言葉です。
日本の食卓も結構雑多じゃないですか。冷奴の横にポテトサラダが出たり、焼き魚があったり。だから柔軟性があり懐の深いイタリアワインは、日本料理ともよく合うと思っています。

佐藤:好きな料理と好きなワイン、どちらで合わせてもいいんですよね。要はアプローチの問題で、この料理にはこのワインと決めすぎないで自由に愉しむ、それがイタリアの食卓。日本でも、イタリアワインを飲むときは、そんなふうに愉しんでみて欲しいですね。

イタリアワインと共に、自由に食卓を愉しむ

日々の食卓になくてはならない存在として親しまれてきたイタリアのワイン。
自由に食を愉しむこの国の人々にならって、豊かな個性をもつイタリアワインを気軽に愉しんでみてはいかがでしょうか。

100種以上のトスカーナワインと風土料理が自慢のレストラン。オーナーシェフの佐藤さんが提案する料理に合わせたワインのコースと共にマリアージュを堪能できる。

住所:東京都文京区本郷1-28-32-101
営業:12:00〜15:00(L.O13:30)、18:00〜23:00(L.O21:00)
定休日:日曜日、隔週月曜日