ワインと味わう、日本。「山梨」篇

2018.09.13

シャトー・メルシャンでは、その土地の気候・風土・生産者によって育まれるブドウを素直に表現し、その土地ならではの日本ワインをつくっています。そんな地域色溢れるワインと、同じ空気や水で育まれてきた地元食材を使った料理のマリアージュを追求してお届けする「ワインと味わう、日本」。第4弾は、山梨県です。

甲府のソウルフード「鳥もつ」と「山梨マスカット・ベーリーA」

ほうとう、煮貝と並び、今や甲府ブランドのひとつとなった“鳥もつ”。戦後間もない頃、「捨てられるだけの鳥のもつがもったいない」と、甲府市内の蕎麦屋で考案されたメニューが始まりとされています。 硬さや臭み、見栄えの悪さといったもつの弱点を甘辛いタレで補うことで、安くておいしい料理として親しまれるようになり、今や甲府を代表する“ご当地グルメ”として定着するまでになりました。

牛や豚のもつ煮込みとは異なり、短時間のうちに醤油と砂糖のみで強火で照り煮にする鳥もつ。添え野菜には、ししとうや白髪ねぎがよく合います。

こっくり甘辛な鳥もつに合わせるワインは、ミディアムボディの「山梨マスカット・ベーリーA」。昭和の初期に生まれた日本固有のブドウ品種で、現在も県内で多く栽培されている「マスカット・ベーリー・A」を使っています。

ストロベリー、ラズベリー、クランベリーといった果実の甘い香り漂う「山梨マスカット・ベーリーA」。適度な酸味と穏やかなタンニンが、タレの絡んだ鳥もつの甘さをやさしく包み込んでくれます。滑らかな口当たりの奥に果実味を感じる、深い味わいのペアリングです

ブランド豚を使った「ポークピカタ」と「山梨甲州」

山梨県を代表するブランド豚、「甲州富士桜ポーク」。畜産試験場が長い年月をかけて研究開発し、2013年より県内農家での生産が始まりました。
きめ細やかでやわらかな肉質、保湿性が高くジューシーな口当たりが、甲州富士桜ポークの特長。その持ち味を存分に引き出す料理として、「ポークピカタ」はいかがでしょう。塩コショウで下味をつけたヒレ肉に小麦粉をまぶし、たっぷりと溶き卵をからませてソテーする、シンプルなレシピです。

合わせるのは、辛口の白ワイン「山梨甲州」です。山梨県で古くから栽培されているブドウ「甲州」が持つ、しっかりとした骨格と味わい深さを、シュール・リー製法で引き出したもの。

ワイン醸造方法のひとつ“シュール・リー”とは、フランス語で「澱(おり)の上」を意味します。貯蔵タンクの中で澱と接触させることで、ワインに豊かなボディと独特の旨味を与えます。

青リンゴやレモン、カボス、スダチなど爽やかな柑橘の香りと、すっきりとしたフィニッシュとを引き立たせるため、皿に盛ったピカタにカボスをひと絞り。噛みしめるほどに溢れ出る脂の旨味を、すっきりと切ってくれます。

ワインかすを食べて育つ県産牛肉と「甲州グリ・ド・グリ」

山梨の大自然と甲州ワインが育んだ牛肉“甲州ワインビーフ”をご存知ですか?山梨県甲斐市の牧場(小林牧場)で育てられた牛たちが口にするのは、ブドウの搾りかす。 栄養が赤身に行き渡る生後6ヶ月目から、ポリフェノールたっぷりのブドウの搾りかすを肥料に加えることで、含まれる酵素の働きにより肉質が改善され、赤肉独特の臭みが減り、肉質も柔らかく、旨味が引き出されるといいます。

ワインを食べて育った口当たりのいい甲州ワインビーフは、ぜひレアな味を愉しんでみてください。薄切りでカルパッチョにすれば、肉そのものの旨味をダイレクトに感じることができます。また、添える野菜も玉ねぎやショウガといった香味野菜ではなく、食感の違いを生かした紅芯大根と、エディブルフラワーで色味を合わせました。

通常、白ワインは、ブドウをつぶした後、すぐに圧搾された果汁だけが発酵過程へと進みますが、「甲州グリ・ド・グリ」は、一定期間、果汁に果皮を漬け込むスキンコンタクト製法でつくられたワイン。果皮や種からの複雑な味わいとタンニンの渋味も感じ取れ、口の中で立体感を生み出します。

白桃やアプリコットなど、フルーツを煮詰めたアロマに加え、樽由来のなめらかなヴァニラ、ダージリンやオールドローズのような心地よくやさしい香りが全体を包み込みます。中盤から余韻にかけては、ローストしたアーモンドのような香りが長く続くのも「甲州グリ・ド・グリ」の持ち味。

一般的に、肉料理には赤ワインという印象があるかと思います。けれど、赤ワインのように醸した「甲州グリ・ド・グリ」は、タンニンも感じられる厚みのある白ワイン。それゆえ肉料理との相性も申し分ありません。

カルパッチョを引き締めるソースには、瑞々しいパッションフルーツをふんだんに使いました。南国フルーツ特有の個性的で強い香りを生かしつつ、オリーブオイルとレモン汁を加えることで角が取れ、よりまろやかなソースに。ほんのり甘酸っぱく、噛むほどに芳醇な旨味が広がる甲州ワインビーフとの一体感をより強く味わえるはずです。

冷やしてもおいしくいただける「甲州グリ・ド・グリ」ですが、ぜひ常温で。甘美な香りとふくよかな味わいを存分に愉しめますよ。

同じ産地の日本ワイン×食材だから生まれるハーモニー

恵まれた大自然の中で育った食材と地域色溢れる日本ワイン。味覚を通してその土地特有の性質を理解することは、食の愉しみを一層広げてくれるはずです。同じ土地に根ざした食材とのマリアージュを、ぜひ味わってみてください。